おいしい日本のイチゴは海外でも大評判だが、「日本品質のイチゴを世界に届けたい」と、2025年からマレーシアでの現地生産にチャレンジするのが、農業スタートアップの「CULTA(カルタ)」だ。画像解析とゲノム解析により、10年以上かかると言われるイチゴの品種改良期間を2年に短縮。隣国のシンガポールなどで販売を開始し、5年後の2030年には50億円の売り上げを目指すという。同社代表CEOの野秋収平さん(31)にフリーランスライターの水野さちえさんが取材した――。
農業にポテンシャルを感じて起業
「おひとつどうぞ」と差し出されたイチゴを口に入れると、フレッシュで濃厚な甘みと、ほんのり漂う酸味が交互に感じられた。単に甘いだけではない、“本物のイチゴの味”だ。場所は埼玉県某所。農業スタートアップ企業「CULTA(カルタ)」の実験圃場を、代表の野秋収平さん(31)が案内してくれた。
「ここではラボで品種改良したイチゴを、実際の栽培環境で育ててでき上がりを評価しています。先ほど食べてもらったのは、CULTAで品種改良したものです。甘さと、長距離輸送に耐えうる丈夫さを兼ね備えた品種です」
野秋さんは静岡県沼津市生まれ。地元の高校の周りにイチゴ農家が多く、大学進学にあたっては、学部選びのテーマを「農業」「環境」「エネルギー」に定めたという。
「ちょうどバイオマスエネルギーや、太陽光発電が注目され始めた時期でした。『食料とエネルギーに関わる研究がしたい』と工学部(東京工業大、現東京科学大)に進学しましたが、(東京大学)大学院では農学研究(農学生命科学研究科)に転身しました」
きっかけは大学2年生で参加した、フィリピンでの短期留学だ。食堂で食べたトマトに味がなく、日本産の野菜のおいしさに気づかされたという。一方で、かつては「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の代名詞ともされた家電製品が、日本産から韓国産にとって代わられているのも目の当たりにした。
「『日本の農産物のブランドを作る研究がしたい』と考えました。ICT(情報通信技術)を活用したスマート農業が話題になっていたこともあり、東京大学大学院の農学生命科学研究科では、画像解析の研究室に入りました」
並行して農業や流通の現場を理解すべく、東京都中央卸売市場やイチゴ農家での業務を経験。野秋さんは大学院在学中の2017年、24歳でCULTAを起業した。



