初めから現地生産・現地販売で勝負する

「初めから海外で生産して勝負しよう」

野秋さんが温めていたこのアイデアはどのような経緯で生まれたのか。

「理由はシンプルに、海外の方が私たちの強みを役立てられると考えたからです。おいしい日本のイチゴを海外に届けるための方法は主に、①日本で生産されたイチゴを輸出する、②日本の品種をそのまま海外で生産して販売する、③日本の品種を、海外の気候に合わせて改良し、現地生産して販売する、の3つです。

①はフードマイレージ(生産地から消費地までの距離と重量を掛け合わせた指標)が大きく、地球環境への負荷も高くなります。②だと、既存のブランドイチゴは種苗法で一定期間保護されていて海外に持ち出せない上に、現地の気候でうまく育つ保証もありません。③ならば、私たちの技術がそのまま役に立つのです」

野秋さんはリサーチを進め、販売国をシンガポールに選定。シンガポールの周辺でイチゴの生産に適したエリアを探し、シンガポールの隣国で陸上輸送が可能な、マレーシアのキャメロンハイランドに狙いを定めた。キャメロンハイランドは熱帯地域にありながら標高は1500メートルほど。年間を通じて冷涼な気候で、日本の軽井沢のようなイメージだ。しかもすでに、アメリカ品種を生産するイチゴ農園も点在していた。

マレーシアのキャメロンハイランド。
提供=CULTA
マレーシアのキャメロンハイランド。アメリカ品種のイチゴが生産されている。

「自分でも足を運んでみて、『これはいける』と直感しました。幸い、初めから海外で生産する事業計画は投資家に高く評価され、資金調達も進みました。さまざまなツテをたどって現地のイチゴ生産者を集め、キャメロンハイランドでCULTAの事業説明会を開催しました。2023年のことです」

マレーシアのイチゴ生産者たちと野秋さん
提供=CULTA
マレーシアのイチゴ生産者たちと野秋さん