「別の仕事」に人員が割かれ、監視が緩む

外事警察はかねて監視を続けていたにもかかわらず、なぜもっと早く摘発できなかったのか。

「岸田政権時の2022年ごろから本格的に始まった、外事警察のアウトリーチ活動です。経済安保対策を企業に促すため、現場で情報収集に従事していた外事警察官の一部が国内外の企業や団体に赴いて、経済安保の意義などの説明を行っていました。この活動に人員が割かれ、現場の情報収集要員が減り、結果的に監視能力が弱まってしまい、今回のアエロフロート日本支店への監視が甘くなってしまったと推察されます」(松丸さん)

そもそもロシアスパイが最も得意とし、日本に対しても盛んに行われているのがヒューミント(人的諜報)活動だとされる。過去、そして近年でも、ロシアスパイの日本人への情報工作活動がニュースになっている。

代表的な例では、2000年代初めの「ボガチョンコフ事件」が挙げられる。海上自衛隊員がGRUのスパイから偶然を装い接触され、結果的に篭絡され機密情報を渡してしまったという事件だ。ロシアスパイは隊員の一人息子が難病に苦しんでいることに注目し、治療費や絵本をプレゼントするなど「心のひだに入っていくロシアスパイの伝統的なやり方」(松丸さん)を駆使して、隊員からさまざまな機密情報を引き出していった。

「道を教えて」きっかけでスパイの共犯に

2020年のソフトバンク事件では、5G設備に関する機密情報を在日ロシア通商代表部所属のスパイに漏らしたとして社員の男が警視庁公安部に逮捕されている。また今年1月には工作機械メーカーの30代男性が、ロシアスパイに機密情報を漏らしたとして書類送検されている。

※日本経済新聞「ロシア元職員ら書類送検 メーカー機密情報漏洩疑い、スパイ活動か」(2026年1月20日)

「手口はロシアが得意とする典型的なヒューミントです。男性が路上を歩いているとウクライナ人と名乗る外国人に道を聞かれ、教えると『お礼に食事をご馳走したい』と持ち掛けてきたそうです。男性はレストランでの食事の後もこの人物と会うようになり、カネと引き換えに機密情報を渡してしまった。その後も会うたびに金額が増えていき、断り切れなくなってしまったそうです。男性は『小遣いが欲しかった。唆されてしまった』と供述しています」(警察関係者)

ビジネスマンが握手を交わす
写真=iStock.com/travelism
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いったん取り込まれたらその先は地獄が待っている。一会社員がロシアスパイの手足となっていとも簡単に犯罪に加担してしまう。

「20年のソフトバンク事件では、パソコン画面に映し出した機密情報を特殊なマイクロチップに入れさせて、ロシアスパイがソフトバンクの課長に『こうすれば何もないマイクロチップに見えるから』という方法まで指南していました」(松丸さん)