狙いは精密機械メーカー、防衛産業

「古くからアエロフロートに配置されているSVR、今回報道で注目されたGRU、それにロシアのさらに別の諜報機関であるFSB(ロシア連邦保安庁)のスパイは、それぞれの目的で情報収集しています。こうしたロシアの出先企業にスパイがいるのは外事警察の間では常識です。

アエロフロート日本支社に外交官の身分を持たないスパイを置く理由は、ここには情報が集まるからで、特にパスポートに記載されている個人情報に関心があるのです。日本からロシア各地へ渡航する人の情報もそうですし、日本のメーカーなども含めて、さまざまな企業の個人情報を労を少なくして得ることができる、ロシアにとっては重要な拠点です」

松丸さんは「ただ、今回のロシアの狙いはいつもとは異なるのではないか」と指摘する。

「もともとの狙いは航空会社を利用する個人や企業の情報を得ることですが、プラス今回は軍事転用できる部品をアエロフロートの支社を経由して調達していたことから考えると、精密機械、軍事転用できるような製品情報を扱う企業をメインターゲットとして絞ってきたと考えられます。

しかも今回、ロシア軍のGRUの関与が疑われていることからみても、工作が目的ではなくて、軍事転用できる製品を扱うメーカーや防衛産業の情報を狙い撃ちしているのは間違いありません」

パレードを見るプーチン氏 「弱さ」露呈した独裁者
写真=タス/共同通信社
2026年5月9日、モスクワの赤の広場で行われた対ナチスドイツ戦勝記念のパレードを見るプーチン大統領

「ウクライナと戦うドローンが欲しい」

アエロフロート日本支店が、ロシアのさまざまな諜報機関が入りこむロシアスパイの巣窟になってしまっているのはなぜなのか。松丸さんは背景をこう分析する。

「ロシアが2022年の2月にウクライナに侵攻して4年半が経過し、ロシアは武器の調達や軍事情報の収集がかなり困難になってきているようです。それに日本とロシアのアエロフロートの直行便は2022年に廃止されていますから、比較的動向が表に出にくい都内の日本支店が舞台になりました。この紛争で特にウクライナが戦術的に多用するドローンに対抗するための武器の調達を急ぎたいロシアが、スパイをロシア大使館に厚めに配置したというのが私の見立てです」

ロシアとウクライナは双方、ドローンを駆使した戦闘を続けている。松丸さんによれば、日本はアメリカに次いでドローン部品の供給国になっているという。経済安全保障の絡みもあって現在では輸出入における監視体制が厳しくなっている中で、ロシアは日本の出先企業での支社を隠れ蓑に、ドローン部品調達を続けていたということなのだ。