柳井氏は「ほとんどの商品は売れないと思ったほうがいい」と言う。なぜ売れないかといえば、客のニーズを当てにいくからである。客のニーズは会社の外にあるから、誰でもアクセス可能。皆がマーケットインで開発するからどこも同じような商品になる。だから売れない。
柳井氏の考え方というのは究極のプロダクトアウトであり、自分アウトだ。
「これはお客さんにとって絶対に価値がある」と自分が信じた商品だけを売る。売れないとしたら、自分で本当にいいと思っていないから。ユニクロという会社に私がやり抜く強さを感じるのは、そうした信念を組織で共有しているからだ。
次に2つ目の記事について。「全員経営」に続くフレーズで「1人ひとりが独立自尊の商売人でなければならない」と柳井氏はよく言う。
1人で仕事はできないから結果的に分業するにしても、自分の仕事だけではなく、常に経営全体に関心が向いていなければならない。
1人ひとりが独立自尊の商売人として、「店舗をどうやって運営していくのか」という小さなレベルから「グローバルなユニクロとはいかにあるべきか」という大きなレベルまで、それぞれ全体に関心を持つ。
組織には経理、営業、企画といったセクションごとの水平的な分業と、役職ごとの垂直的な分業が存在する。しかし分業は結果的に生じるものであって、事前にジグソーパズルの1ピースのように定義された「担当者の仕事」はないというのが柳井氏の哲学なのだと思う。つまりそれが全員経営である。
これは「やり抜く力」に大いに関係してくる。マルクスは分業の効率を説いたアダム・スミスに対して「『あなたはこれだけやって』と言われて面白いか?」と批判した。有名な疎外論である。機械的な分業でも経済的なインセンティブがあれば頑張るかもしれないが、それは本当のやり抜く力ではない。スペイン・サグラダファミリアの石工は、ガウディが何百年かけた構想に自分が関与しているという誇りがあるから、目の前の石を削るのに寸分の妥協も許さないのではないだろうか。
1964年、東京都生まれ。92年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。2010年より現職。著書に『ストーリーとしての競争戦略』『戦略読書日記』。