食事療法はQOLの低下をもたらす

「抗がん剤や放射線には副作用があるが、食事療法には副作用がないから、効かないかもしれなくてもやってみてもいいのでは」と考える人もいます。しかし、食事療法も副作用が生じるリスクがあります。まず、真っ先に思い浮かぶ副作用は、生活の質(QOL)の低下です。

好物を食べられない、旅先で食を楽しめない、毎日ニンジンジュースを大量に飲んで飽き飽き――そんなことになれば患者さんに大きな負担がかかります。糖尿病や腎臓病における食事療法も生活の質を下げるという副作用はありますが、一方で効果という利益があります。しかし、「がんを治す」と称する食事療法の利益は不明確です。

想像してみてください。がんと闘っている女性とその夫が「少しでも治る可能性を高めたい」という一心で情報を探します。その中に「砂糖はがんのエサになるから避けるべき」といった主張を見つけて、実行することに決めたとしましょう。医学的には誤りです。砂糖を完全に避けても、ご飯やパンなど他の炭水化物が消化によって糖に変わり、体内でも肝臓などで糖が作られますし、そもそも「がん細胞だけを飢えさせる」ことはできません。

しかし、甘いものが大好きだった女性は、「自分ががんになったのは甘いものを食べ過ぎたせいかも」と自分を責め、好物を口にするのをやめます。本当は食べたいのに、治療のためだと信じて我慢を続けます。しかし、その我慢によってがんが治りやすくなったり、再発が減ったりすることを示す証拠はありません。つまり、患者さんは効果がないのに、我慢だけ強いられることになるのです。

ドーナツを食べている若い女性
写真=iStock.com/pain au chocolat
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体力を損ねたり関係性を壊すことも

食事療法の弊害は、それだけではありません。根拠のない食事制限によって治療を支えるために必要な体力や栄養状態を損ねるリスクがあることも、大きな問題です。

がんの治療中には、抗がん剤や放射線による治療の影響で食欲が落ちることが少なくありません。そのようなときは十分なカロリーを確保し、体力を維持することが重要です。例えば、食事はとれなくても、プリンやアイスクリームなら口にできることがあります。にもかかわらず、「甘いものはがんのエサだから食べてはいけない」という誤った情報を信じて避ければ、十分なカロリーをとれずに体力が落ちます。がんを治す効果が証明されていない食事制限によって、治療を受けるための体力が奪われては本末転倒です。

そのほか、家族との関係を壊すこともあります。しばらくの間なら甘いものの制限を我慢できても、闘病期間が長くなるにつれてつらさが増すでしょう。たまには美味しいケーキを食べたい、以前よく夫と一緒に通ったケーキ屋さんで楽しいひと時を過ごしたい――しかし夫は「ケーキなんか食べたら治らなくなる」と猛反対して大げんかに。

こうした話は決してめずらしくありません。隠れて甘いものを食べる患者さん、それを見つけて患者さんを責めるご家族。甘いものを我慢してがんが治るなら、それでもいいでしょう。しかし、がんが治らず愛する人が亡くなったとき、ご家族のもとに残るのは無駄な我慢を強いていたという事実です。もちろん、ご家族が悪いわけではありません。なんとか治ってほしいという深い愛情ゆえの行動だからです。悪いのは、根拠の乏しい情報を、あたかも医学的事実のように広める人たちです。