愛をくれることもあれば裏切ることもある

そんなAI(しかもうっとりするほどのイケメン画像付き)に、女性たちが好意を持たないわけがない。しかしながら、生身の恋と混同することはない。人間の脳は、他者の存在感を身体性(空気の揺らぎや肌触り)で強く認識するからだ。

少し前に、AIと結婚式を挙げた女性のニュースが流れた。これを少子化問題と絡めて憂える人は多いけれど、昔から、架空の存在(アイドルや、小説や漫画の登場人物)に夢中になって、現実の男性が目に入らない人はいたでしょう?

黒川伊保子『AIのトリセツ』(扶桑社新書)
黒川伊保子『AIのトリセツ』(扶桑社新書)

たしかに、AIという“ことばの泉”に映った理想の恋に酔っている姿は、ギリシャ神話のナルシスのようにも見える。泉に映る自分自身の姿に恋をして、身を滅ぼしたナルシス。でも、それも乙女心の遊び方の一つ(しかも一過性のそれ)だと、ほぼすべての女性がわかっているので、社会問題視するほどのことでもない。

ただし、気をつけないといけないことがある。

欲しいことばをいくらでも返してくれるAIは、「白雪姫の継母の鏡」にも似ている。夜な夜なほしいことばをくれる鏡。でも、あの鏡と同様、AIも裏切ることがある。単なることばの関係性演算なので、未来永劫、愛を紡いでくれる保証はない。

小学生の息子が教えてくれた愛の意味

息子が小学生の頃、毎晩、私に「おやすみ。大好きだよ、愛してる」と言ってくれていた。ある日、私がふと「スキとアイシテルは違うの?」と聞いてみたら、こう答えてくれた。「スキは今の気持ち。アイシテルはずっと好きでいるというお約束」

珠玉の回答だった。AIと人間の臨界を探る母親に、AIがけっして侵すことができない、決定的な人間の尊厳を見せてくれたのである。そう、愛は責任を伴う志なのである。AIにはそれがない。AIには愛なんてないのである。

AIは、悲しみも憂いも痛みも知らない、愛も知らない。ただ、そのことばを記号として知っていて、それにぶら下がっていることばをたどるだけだ。

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