日本の65歳以上の高齢者は総人口の29.4%を占め、この割合は世界で最も高い。医師の和田秀樹さんは「日本は高齢者に冷たい国になっている。古き良き時代の敬老精神などすっかり失われ、排除する空気が蔓延している。日本社会そのものが老化して“前頭葉バカ”になったことで、キレる年寄りを生んでいる」という――。

※本稿は、和田秀樹『老人は「キレる」くらいでちょうどいい』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。

イライラしている人
※写真はイメージです

高齢者に「集団自決」を求める識者が人気者に

前頭葉が弱って感情のコントロールができなくなっているのは高齢者だけではなく、日本社会全体の問題です。しかも「共感脳」タイプが出世する試験制度により、現代は合理的・科学的な思考力の弱いエリートが増えています。

一方、庶民の多くは「為せば成る」という意欲を失い、満たされない自己愛を抱えて、エンビー型(「自分が持っていないものを持っている他人」に向けられる羨望や嫉妬の感情)の嫉妬心を「攻撃しやすい弱者」にぶつけるようになりました。

それが「みんなと同じ」でいたがるシゾフレ(「シゾフレニア」=統合失調症を略したもの)的な心理と相まって、一斉に同じ「敵」を叩くという攻撃性に満ちた空気をつくり出しているのです。

そんな世の中でバッシングを受けている高齢者は、むしろ被害者のようなものでしょう。

たしかに高齢になると前頭葉が萎縮してキレやすくなるので、カスハラやモラハラなどの迷惑行為をしてしまうことはあります。でも、そういう人がいるのは、どの年齢層も同じこと。高齢者の起こす騒動だけを捉えて「いまどきの年寄りは」と文句をつけるのは、針小棒大というものです。

しかも、叩かれるのは高齢者の迷惑行為だけではありません。高齢者の存在そのものが迷惑であるかのような言動も目立つようになりました。

その代表格は、2021年12月に経済学者の某氏がインターネットテレビ局「ABEMA」で発したこの言葉でしょう。

「(老害をなくすための)唯一の解決策ははっきりしていると思っていて、結局、高齢者の集団自決、集団切腹みたいなことしかない」

「高齢者は集団自決すべし」が支持される理由

この発言は大いに物議を醸し、米国紙「ニューヨーク・タイムズ」でも報じられました。たとえ「自決」や「切腹」といった表現が「重要な地位からの引退」の比喩だとしても、きわめて乱暴な発言です。

それも「集団」自決というのですから、某氏はすべての高齢者をひとくくりに「老害」扱いし、その自決を提案しています。社会的な影響力のある人物に許される発言ではありません。

ところが、こんな暴言を吐く人間がいまだにマスメディアに顔を出し、社会問題に関するコメントを発信し続けています。そこがいちばんの問題でしょう。彼の発言に対する賛同や擁護の声も少なからずあり、メディアにとっては「数字の取れる人気者」だからこそ、出演や執筆の依頼が絶えないわけです。

こんな世の中が、高齢者にとって暮らしやすいはずがありません。いまの日本社会には、高齢者を「老害」「邪魔者」「社会のお荷物」などと見なして敵対的な視線を向け、某氏の発言に拍手を送るような人々がたくさんいます。

もちろん、それとは正反対に、高齢者に親身で、共感を持ってくれる人々も大勢いるでしょう。しかし「高齢者は集団自決すべし」のような発言が賛否を含めて大きな話題になり、それを口にした識者が人気者であり続ける状況は、高齢者によって恐ろしいことです。

高齢者を敵視する空気を肯定し、常に攻撃対象を求める人々の同調圧力を強めたという意味でも、某氏の発言はじつに罪深いものでした。