認知症が始まる

2015年3月の午後。78歳の母親が買い物帰りに自転車で転んだ。通りすがりの人たちが心配して助け起こそうとしてくれたが、「もうすぐ立つつもりだよ、大丈夫」と断ったそうだ。

しかし少し休んで立ち上がろうとしたところ、足に力が入らない。日中は暖かくなってきたがまだ3月。夕方には暗くなり、空気がひんやりしてくる。通りすがりの人が心配し、助け起こそうとしてくれた。今度は素直に応じ、助け起こしてもらったが、やはり自力で立てない。自分でもさすがに「おかしい」と思った母親は、救急車を呼んでもらった。

「病院から仕事中の兄に連絡がいき、家にいた兄嫁が入院の手続きをしたようです。私は翌日、母からの電話で知りました」

母親は、右大腿骨の手術と人工股関節置換手術をすることになり、2週間ほどの順番待ちを経て手術後は3週間入院。6年前の2009年10月に膝の手術を受けており、その時に身体障害者手帳3級を取得していたこともあってか、要介護認定調査を受けると、要支援2だった。

股関節置換術の説明をする医師
写真=iStock.com/Nadzeya Haroshka
※写真はイメージです

退院した母親は家にこもるようになり、父親が買ってきた食料品で簡単な料理をするという生活に。

「この頃から、私が実家に行くと床は埃だらけで、母の髪は伸び放題になっていて、かわいそうに感じました」

そして2016年春頃。79歳の母親から届くLINEの文章変換や文章がおかしくなってきた。

心配になった増井さん(当時55歳)が実家に行くと、その日の夕食は肉じゃがだという。しかし実際は、粉吹き芋に醤油がかかっただけものだった。

「認知症が始まったと思いました。驚きましたが、何も言わず食べました。パソコンも扱い、自分で描いた絵手紙を年賀状にする人だったので、突然の変化にショックを受けました。すぐに認知症に関する本を10冊ほど買って読み、ココナッツオイル、音楽、補聴器、散歩、デイサービスなど、良いと言われることは全て試しました」