プロパガンダ上の思わぬ利益
この戦争はまた、中国にアジア全域の人々に発する新たなメッセージを与えた。アメリカは信頼できず、ますます予測不能なパートナーになっている、というものだ。
「トランプの発言や政策がもたらした損害は、いま各国が(イラン戦争への)支持を差し控えていることにはっきり表れている。アメリカの決定によって自国に負担と危険が及んでいると怒るのは当然だ」と、アメリカン・エンタープライズ研究所の外交・防衛政策研究部長のコリ・シェイク上級研究員は本誌に語った。
「アメリカは中国と同じくらい冷酷に映る。そして、中国よりも予測しにくく、戦略面でも劣っているように見えるのである」
ハスも「中国にとっては、アメリカがイランで戦略目標の達成に苦しんだ事実がはっきり示されたことも、歓迎材料となるだろう」としている。
中国当局者にとって、イラン戦争は格好の宣伝材料である。圧倒的な軍事力を持つアメリカでさえ、イランのような地域大国を相手に、決定的な成果を得るまで何カ月も苦戦した。そうであるなら、中国は今後こう問いかけることができる。ワシントンに、中国沿岸により近い場所で、はるかに大規模な戦争を続ける意思が本当にあるのか。そもそも、それを続ける能力があるのか。
エネルギーショックと強靭性
イラン戦争によって中国側は、アメリカの軍事介入はしばしば混乱を残し、意思決定にほとんど関われなかった同盟国にまで負担を強いるものだ、という従来の主張をさらに強めることになった。
これは台湾にも当てはまる。台湾は事実上、自ら統治を行っているが、中国はこれを自国領だと主張し、必要であれば武力を用いてでも統一するとしている。近年、中国は台湾への軍事的圧力を強めるだけでなく、台湾社会の士気をくじき、本土との統一以外に道はないと思わせるためのプロパガンダ活動も強化している。
本誌は、在米中国大使館と在米台湾外交部にコメントを求めている。
イラン戦争はまた、中国最大の脆弱性の一つを試すものとなった。
中国は原油の約40%、液化天然ガスの約3分の1を中東から調達している。ホルムズ海峡が事実上閉鎖され、海運がほぼ停止状態に陥ったとき、多くの分析家は、中国が深刻な経済的混乱に直面する可能性があると警告した。
しかし、中国はそのエネルギーショックを乗り切った。
イラン戦争中、原油輸入は急減し、数年ぶりの低水準に落ち込んだ。それでも中国は、およそ12億バレルと推定される戦略石油備蓄、製油所の稼働率低下、供給ルートの多様化、輸入化石燃料への依存を減らすために長年続けてきた取り組みによって影響を和らげることができた。
日本や韓国を含む国々が緊急備蓄の取り崩しを迫られる一方、中国は思い切った措置を取る圧力をあまり受けなかった。
中国が加速させたエネルギー外交
中国の強靭性はまた、他国が供給確保に奔走するなかで、中国にエネルギー外交を進める余地を与えた。
中国の精製業者は、ジェット燃料やディーゼルなどの製品の輸出を増やした。フィリピンのようなアメリカのパートナーを含む、エネルギー面で逼迫した経済圏の不足緩和に寄与した。
アナリストらは、多くの国が信頼できる供給元を探していたこの時期に、中国は各国の信頼を得るとともに、影響力を広げる機会を手にしたとみている。
また、この危機は、電気自動車、バッテリー、太陽光パネルなどのクリーンエネルギー技術に力を入れてきた中国の方針が、結果的に正しかったことを示すものにもなった。
原油価格が上昇したことで、世界的に電動化を進めるメリットが増し、国際EV市場ですでに優位に立つ中国メーカーには追い風となった。燃料価格の変動に左右されにくい選択肢を消費者や各国政府が求めたため、イラン戦争中、中国車の輸出は急増した。


