米企業による「投資不可能」という烙印

規制強化の打撃も無視できない。2020年11月にアント・グループの370億ドル規模の上場が中止され、2021年4月にはアリババに27億5000万ドルの独占禁止法違反制裁金が科された。これら一連の引き締めで、中国大手企業の時価総額は大きく毀損した。経緯はロイターが2021年9月16日付の記事にまとめている。

米商務長官のジーナ・レモンド(当時)が2023年8月の北京訪問で米企業から「投資不可能」との訴えを聞いたと公言し、調査会社への家宅捜索や反スパイ法の運用への懸念を背景に名指ししたと、ロイターが2023年8月30日に伝えた。外資が恐れるのは不況そのものより、自社では制御できない政策変更である。

内閣府の経済安全保障推進法に関する公開資料は、半導体、蓄電池、重要鉱物などを特定重要物資に指定し、安定供給の確保を支援すると説明している。中国も同じ論理で重要物資を政治カード化する。

中国商務部は2026年2月24日、日本の20団体への軍民両用品輸出を禁止し、別の20団体を監視リストに加えると公表した。ビジネスと安全保障の境目は、もうなくなった。企業は中国事業を「いくら儲かるか」だけでなく、「止まったとき代わりが利くか」で見直す必要がある。

日本車を守ったのは「逃げる勇気」だった

ポルシェの数字は、中国依存の危うさを象徴する。ポルシェAGが2026年3月11日に公表した2025年通期決算によれば、売上高は362億7000万ユーロ、営業利益は4億1300万ユーロにとどまり、営業利益率は2024年の14.1%から1.1%へ急落した。

ポルシェは中国の高級車市場が難しく、EVを中心に価格競争が続いているとも説明している。高級車ブランドでさえ、中国の消費不振と価格競争から自由ではない。

中国で稼ぐ余地が消えたわけではない。人口規模、製造基盤、技術者層、消費市場はいまも巨大だ。BMWやBASFが投資を続ける判断にも合理性はある。だが、巨大であることと、安全に稼げることは別である。

平時の効率だけを追えば、生産は安い場所へ集中する。有事の強さは、非効率に見える余白から生まれる。複数拠点、複数調達、複数市場を持つ企業ほど、政治の揺れを事業停止に直結させずに済む。企業に必要なのは単純な「脱中国」ではない。中国に依存しきらないまま中国と向き合う、脱・中国一本足である。

三菱自動車は中国での生産を手放し、キヤノンは成熟したレーザープリンター量産から成長分野へ資源を移した。ソニーは中国以外で作れる体制を広げ、ホンダは中国能力の圧縮へ動く。これらは弱気の撤退ではない。自社の技術、人材、資本、供給網を一つの政治市場に人質として差し出さないための判断である。

「中国に残る勇気」より、「中国に縛られない設計」が企業を守る。習近平政権の政策運営によって、不動産、消費、民間企業、外資の心理が同時に冷えた現在、中国から早く逃げた判断は正しかった。経済安全保障の時代における企業の勝敗は、どれだけ売ったかだけで決まらない。危険な依存を、どれだけ早く切れるかで決まる。

日本の国旗と走る車
写真=iStock.com/Derek Brumby
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