「逃げ場のある自動車」だけが生き残る

ソニーも同じ線上にある。同社は2019年3月、北京のスマートフォン工場での生産を終え、タイ工場へ移管する方針を打ち出した。日米欧向けカメラ生産も中国からタイへ移し、中国工場は原則として中国向け製品のみを担う体制に切り替えた。

ロックダウン、輸出管理、外交摩擦で物流が詰まったとき、企業を守るのは別の供給路である。中国で取引を続けながらも、中国以外で作れる体制を持つ。ソニーの移管は、コスト削減だけでなく、その「作れる自由」を残す判断だった。

ホンダも同じ構図だ。ロイター(2026年4月17日付)によれば、同社は中国のガソリン車工場4拠点のうち1拠点を休止し、もう1拠点も休止を検討している。2工場を休止すれば、ガソリン車の年産能力は96万台から48万台に半減し、EV工場を含めた中国全体の能力も120万台から72万台に減る。2025年の中国販売は前年比24%減の約64万台で、ピークの160万台の4割にとどまった。

この縮小を「日本勢の敗北」とだけ見ると、経済安全保障の本質を見誤る。売れない市場に工場を固定し続ければ、次の投資余力が削られる。縮小は守りであると同時に、資本と技術者を次の安全な拠点へ逃がす攻めの一手でもある。

「中国で稼ぎすぎた」ドイツ車の落とし穴

日本企業が中国依存を下げる一方、ドイツ企業はこれまで中国で成功しすぎた。

フォルクスワーゲン、BMW、ポルシェ、BASFにとって、中国は単なる販売先ではなく、成長計画の前提だった。だから前提が壊れると、損益だけでなく産業戦略そのものが揺れる。ドイツ政府は対中「デリスキング」を掲げてきたが、企業の投資残高と現場の雇用は簡単には減らない。成功体験は、時に最も重い足かせになる。

フォルクスワーゲンの販売店
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BMWは中国・瀋陽の生産拠点に200億元、当時のドル換算で27億6000万ドルを追加投資し、累計投資額は約1050億元になると、ロイターが2024年4月27日に報じた。2026年からEV専用ライン「Neue Klasse」を生産するためだ。合理的な成長投資ではある。だが同時に、中国市場の制度、需要、部品網にさらに深く資本を投じる判断でもある。

BASFはもっと象徴的だ。同社は広東省湛江の化学コンプレックスに約90億ユーロを投じ、2028年までに完成させる計画を進めている(ロイター 2026年3月21日)。中国は世界の化学品市場の約半分を占める一方、BASFの世界売り上げに占める中国の比率は14%。同社は2030年に約5分の1へ高める長期計画を掲げる。

需要が伸びれば果実は大きい。しかし経済安全保障では、投資が大きいほど撤退の自由は小さくなる。供給網の強さとは、巨大な拠点を増やすことではない。どこかが止まっても別のルートで回せる構造を持つことだ。