三菱自動車の「撤退」は正解だ
三菱自動車は中国で勝ち切れなかった。中国の自動車市場では、電気自動車(EV)とソフトウエアを武器にした中国勢が急速に台頭し、外資のガソリン車モデルは陳腐化した。三菱自動車が苦しんだのは、市場変化への対応が遅れたからでもある。
それでも、撤退を決めたことには経済安全保障上の意味がある。2023年10月24日に公表された三菱自動車の資料によれば、同社は中国における三菱ブランド車両の現地生産を終了し、合弁会社・広汽三菱の株式を中国側パートナーに譲り渡し、工場はEVブランド「Aion」の生産に転用させるとした。連結決算では特別損失243億円を見込んだ。
経営には、勝つための投資だけでなく、負けを固定化しない撤収もある。売れない工場を中国に持ち続ければ、資金も人材も部品の調達先も中国に縛られる。EV化が進んで中国側の発言力が増すほど、日本企業は合弁会社の中で自由に判断しにくくなる。
三菱自動車は泥沼化する前に生産リスクを切断した。撤退後もアフターサービスは続ける。市場との関係を完全に断つのではなく、自社の資本と生産機能が拘束される部分を外す。この線引きが、経済安全保障の実務である。
「24年間で1億台を作った工場」を閉じた理由
キヤノンの事例は、経済安全保障の議論を自動車から精密機器へ広げる。2025年12月2日に更新されたChina Dailyの記事によれば、キヤノンは広東省中山市のプリンター工場を2025年11月21日付で閉鎖した。工場は2001年設立で、24年にわたりレーザープリンターを生産してきた。2022年4月時点で累計1億1000万台のレーザープリンターを生産した主要拠点だった。
同記事によれば、キヤノンは中国の他の生産拠点は通常通り操業していると説明している。ここで起きているのは中国事業の全面撤退ではなく、成熟した量産拠点の見直しである。
中国で大量生産すれば安全に稼げるという前提は崩れた。市場調査会社IDCのデータとして、同記事は中国のレーザープリンター市場でキヤノンのシェアが2018年の7.7%から2025年1~9月期には3.9%へ低下し、中国ブランドの合計シェアが41.5%に上がったと伝えた。成熟した量産品は、中国で作っても中国企業に追い上げられる。価格競争が強まるほど工場は利益を生む資産ではなく、撤退費用を伴う固定資産に変わる。
一方でキヤノンは、資源を高付加価値分野へ移している。2026年1月29日に公表されたキヤノンの2025年12月期決算説明資料によれば、年間売上高は4兆6247億円で2年連続の過去最高となった。
レーザープリンターは減収だったが、メディカル、ネットワークカメラ、半導体製造装置などが伸び、2026年はメディカル、インダストリアル、ネットワークカメラへの成長投資を重視するとしている。中国の成熟量産から、医療、半導体装置、監視・安全技術へ資本を移す。これは技術と供給網の主導権を取り戻す経営でもある。

