現代特有の「しあわせなはずなのに苦しい」
かつて生存に欠かせなかったこの敏感さが、いまでは他人の成功やSNSの数字にまで反応し、せっかく手に入れたしあわせをあっという間に色あせさせてしまう。脳の仕組みは変わっていないのに、環境だけが激変した。このギャップこそが、「しあわせなはずなのに苦しい」という現代特有の感覚を生み出しているのです。
ドーパミンの打ち上げ花火が上がるのは、自分の予想を上回ったときだけ。再び同じ花火を打ち上げようとしても、前回と同じ大きさでは打ち上がってくれない。だからこそ、一度味わった刺激を、同じレベルで感じることが難しいのです。
そもそも人間の脳は「刺激」をとにかく求める傾向にあります。
「人間の不幸は、部屋のなかにじっとしていられないことから生じる」という言葉は、17世紀の哲学者であるブレーズ・パスカルの有名な言葉です。
人間は、実は「何もしない状態」がとても苦手だといわれています。これを示す有名な研究があります。
67%の男性が電気ショックを選んだ
2014年、アメリカのバージニア大学の心理学者ティモシー・D・ウィルソンらの研究チームは、「人は自分の思考だけで静かに過ごすことができるのか」を調べるユニークな実験を行いました。
研究では、被験者からスマホや本などの刺激をすべて取り上げ、15分ほど部屋で一人きりになって考え事をするよう求めました。つまり、何もせず、自分の思考だけで過ごす時間をつくったのです。
ところが多くの人にとって、この時間は想像以上に退屈で落ち着かないものでした。実験の別の条件では、被験者の前にボタンを押すと軽い電気ショックを受ける装置が置かれていました。被験者は事前にそのショックを体験しており、「お金を払ってでも避けたい」と答えたほどの不快な刺激です。
にもかかわらず、何もしないよりはマシだと言わんばかりに、自ら電気ショックのボタンを押した人が少なくありませんでした。男性では約67%、女性でも約25%が、15分間の思考時間中に少なくとも一度は電気ショックを選んだのです。
※Wilson, T. D., Reinhard, D. A., Westgate, E. C., Gilbert, D. T., Ellerbeck, N., Hahn, C., Brown, C. L., & Shaked, A.(2014). Just think: The challenges of the disengaged mind. Science, 345(6192), 75–77.

