イーロン・マスクにインフラを預けるリスク
ただ、スペースXにも問題はある。2026年5月6日に配信されたロイターの記事によれば、同社の二重種類株式は、イーロン・マスク氏と一部インサイダーに強い議決権を集中させ、一般株主の権利を制限することになる。
宇宙通信という公共性の高いインフラを、一企業と一人の創業者に過度に依存するのは非常にリスクが高い。
スターリンクの権限集中にも懸念がある。2025年7月25日に配信されたロイター調査報道は、ウクライナ軍の反攻時にスターリンクの通信停止が前線に影響したと報じた。スペースX側は報道内容に問題があるという立場を示したが、具体的な反論内容は公表資料上、限定的だ。一企業の判断が戦場や国家の危機対応に影響し得るという論点は残る。
それでも、中国共産党の国家統制モデルが同じインフラを握る場合とは、統制の質が違う。スペースXは市場、裁判所、議会、契約相手、同盟国、報道にさらされる。圧力は不完全で、マスク氏個人の影響力も大きい。だが、権力の所在を確認し、契約を見直し、規制をかける経路が残っている。国家統制モデルでは、通信インフラと国家意思の距離が近すぎる。
日本は「誰の衛星網」を信頼するのか
米国の安全保障需要も、宇宙インフラ化を加速させている。2026年5月27日に配信されたロイターの記事によれば、米宇宙軍(U.S. Space Force)はスペースXに22億9000万ドルの契約を与え、軍事センサーと兵器プラットフォームを結ぶ高速衛星通信網を構築させる。
2026年5月30日に配信されたロイターの記事も、航空脅威を追跡する衛星計画で41億6000万ドルの契約を同社に与えたと報じた。
宇宙覇権の意味は、月に旗を立てる力から、地上の通信、物流、軍事、情報流通を継続的に支える力へ移った。中国の宇宙開発は大きな成功だった。ただ、宇宙が国家の夢から経済安全保障の基盤へ姿を変えた瞬間、スペースXの民間インフラモデルが圧倒的に有利になった。
日本にとっても、この差は離島、海運、航空、資源調達、半導体工場、金融決済、災害時通信を支える現実的な問題である。通信が切れた瞬間、工場も船も金融も止まりうる。企業活動の継続性にも直結する。どの制度圏の通信網に、自国の産業と危機対応を預けるのか。監視可能性のある西側通信圏が標準化で先行した意味は大きい。
中国は表面的な偉業を作り、スペースXは実質的な基盤を作った。経済安全保障の勝敗は、その差で決まった。


