投資家が買ったのは「火星の夢」ではない

スペースXの上場と聞くと、つい株式市場の熱狂に目を奪われる。だが本当に注視すべきは、この上場が宇宙の勢力図をどう塗り替えるかだ。

台湾海峡、南シナ海、ウクライナ型の戦場、巨大災害が起きた瞬間、衛星通信は便利なサービスから戦略物資へ変わる。経済安全保障の焦点は、有事に誰の衛星、誰の通信、誰の打ち上げ能力に頼るかにある。

6月12日に配信されたロイターの記事は、スペースXの市場価値が上場初日に2兆ドルを超えたと伝えた。投資家が買った対象は、火星移住の物語を超えている。低軌道通信、再使用ロケット、軍事データ輸送、衛星製造を束ねる企業が、米国と同盟国の産業基盤に入り込むという期待である。

カリフォルニア州にあるSpaceX本社の外観
写真=iStock.com/Walter Cicchetti
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宇宙は、遠い空の研究所から地上を動かし続ける基盤へ変わった。海運、航空、資源開発、災害時の行政通信、軍事センサーのデータ伝送、遠隔地の企業活動を支える網になった。今回の上場は、株価のニュースというより、危機の際の依存先をめぐる安全保障上の出来事だった。

月の裏側に着陸しても「勝者」にはなれない

中国の宇宙開発は、ここ数年まで世界トップレベルだったことは間違いない。2019年1月3日に配信されたABCニュースの記事によれば、中国の嫦娥4号は月の裏側に世界で初めて着陸した。月の裏側は地球との直接通信が難しく、中継衛星を含む高度な運用設計を要する成果だった。

宇宙ステーションでも中国は独自の足場を築いた。2023年2月10日に配信されたAP通信の記事によれば、中国は2022年11月に3モジュール構成の天宮を完成させた。2022年6月29日に配信されたロイターの記事も、天問1号が2021年に火星へ到達し、探査車を地表に展開したと報じている。

中国は宇宙で確かな先行実績を持ち、一部では世界初を実現した。ただ、そうした到達点の意味は、国民統合、技術大国の演出、外交上の威信に効くものだ。経済安全保障の勝負は、国旗がどこに届いたかより、危機のときに誰の網が地上を支え続けるかで決まる。