ターゲットは中国の中ではなく外
民族団結法は習近平の民族政策を法典化したものだ。この法律を見たとき、2020年の香港国家安全維持法(国安法)との共通点が気になった。「分裂」「転覆」「テロ」という曖昧な概念で異論を犯罪化し、域外適用条項を持つという骨格はほぼ同じである。
ただし、両者の間には決定的な違いがある。
国安法は2019年の大規模抗議運動を受け、事後的に事態を収拾するために制定された。「鎮圧のための法律」である。
民族団結法はそうではない。中国政府はすでにウイグル人やチベット人への弾圧を強制収容所の建設、言語教育の廃止、宗教施設の破壊という形で何年も続けてきた。国内向けの法律など不要であるはずだ。
それなのになぜ、あえて法律として制定したのか。それは、この弾圧政策を将来にわたる長期目標として制度化し、さらに中国の外(つまり、日本などの外国)にまで法的な「触手」を伸ばすためだろう。
国安法が「1つの地域を封じた法律」であるとすれば、民族団結法は「1つの思想を世界規模で封じる法律」として設計されている。
中国が日本で日本人を逮捕できるのか
また、民族団結法は、国安法の「試験運用」が成功した結果として生まれた法律でもある。先述の「域外適用条項」は国安法第38条にも存在する。
2023年、日本の大学に留学中の香港人女子学生が、2年前に日本国内のSNSへ投稿した内容を理由に、帰国後に逮捕された。香港以外の外国での言動に国安法が適用された初のケースだ。国際社会は反発したが、中国への制裁には至らなかった。
※Reuters「Hong Kong student jailed for 2 months under sedition over social media posts in Japan」(2023年11月3日)
この「実験の成功」が、民族団結法の域外適用条項制定の根拠となったと考えられる。
国安法施行から民族団結法成立まで6年。習近平政権はその間、域外適用がどこまで機能するか、国際社会がどこまで許容するかを、慎重に観察してきたのだ。だからこそ、満を持して制定された。
「いくら域外適用があろうが、中国政府が日本で日本人を逮捕できるわけではない」
そう考える人もいるだろうが、そのためのインフラはすでに整備されている。
