インセンティブが働かない
二つ目は、コストの構造的な問題です。
内断熱による躯体へのダメージや、ヒートブリッジによる結露は、すぐには目に見えません。10年、20年と経つにつれ、修繕コストとして表面化してくる問題です。
建設時のコストを管理するのはデベロッパーです。しかし将来の修繕費を負担するのは、管理組合、すなわち購入した居住者です。
一般的に、内断熱に比べて、外断熱はコストがかかります。しかし、先述のとおり、そもそも「工法」は建築基準や省エネ基準に入っていない。購入時点では購買者から評価もされにくい。
そうなると、短期の販売競争においては、どうしても初期コストが優先されやすくなります。長寿命な躯体性能にすることは、販売価格に反映されにくく、デベロッパーにとって優先順位は低いのです。
このディスインセンティブ構造こそが、日本で内断熱を温存してきた大きな要因の一つです。
以前の本連載記事でも触れたとおり、東京23区の新築分譲マンションの平均販売価格は1億円を超える水準にあります。それほど高額な商品でありながら、将来の修繕リスクに直結する工法の選択が、買い手にはほとんど開示されていないのです。
そして、約37%のマンションでは、修繕積立金が不足しているというデータもあります。
日本のマンションは、なぜか躯体の劣化が早い工法を選ぶ一方で、最初の売りやすさから修繕積立金を必要以上に抑える傾向が顕著なのです。
消費者が求めていない
もう一つ見落とせない理由があります。外断熱に対する消費者のニーズが、住宅市場の中でまだ顕在化していないことです。
デベロッパーは、売れるものを作ります。購入者が「外断熱かどうか」を問わない限り、わざわざコストをかけて外断熱を採用する動機は生まれません。立地、共用部の豪華さ、ブランド、価格――マンション選びの判断軸として定着しているのは、今もこうした要素が中心です。
そもそも、外断熱と内断熱の違いを知っている購入者は、ほとんどいないのが現状です。販売資料に工法の詳細が記載されることはなく、営業担当者から説明を受ける機会もまずありません。知らなければ、求めようがない。
岡田さんはこう指摘します。
「欧米では、住宅の性能は購入者が当然確認すべき情報として扱われています。気密測定の結果や断熱仕様を開示しない物件は、先進的な州や自治体では、そもそも市場で評価されない傾向が強くなっています。
一方で、日本では、その前提がまだ共有されていないのです」
以前の記事で触れたように、日本の新築分譲マンションの窓の断熱性能を示すU値すら、多くの購入者は知らないまま数千万円から1億円超の買い物をしています。外断熱か内断熱化は、さらに重要な情報です。
消費者の意識が変わることは、法制度の整備と同じくらい重要です。購入者が「外断熱かどうか」を問い始めれば、市場は動きます。デベロッパーが外断熱を「売り」として打ち出すようになれば、供給側の構造も変わります。制度が変わるのを待つだけでなく、消費者自身が「知る」ことが、変化の起点になりえるのです。
住宅は私的財産であると同時に、都市のエネルギー消費、居住者の健康、長期にわたる修繕負担に影響する社会インフラでもあります。
分譲マンションを購入する際には、ほかの条件とあわせて「断熱材はどこにあるか」を問う視点も持っていただければと思います。
岡田早代(おかだ・さよ)
マサチューセッツ州認定設計士、 ウェントワース工科大学大学院客員教授、自然エネルギー財団研究員(建築の脱炭素関連)。
2004年よりマサチューセッツ州で学校・保育園等の公共建築物の新築・改修、低所得者層の集合住宅の設計に従事。環境コンサルタントとしても活動している。


