国際法と国際政治に挟まれた高市首相
――高市・トランプの日米関係をどうご覧になっていますか。
【千々和】トランプ大統領は特異なキャラクターですから、付き合うのは大変です。高市総理の訪米はイラン攻撃直後でしたが、アメリカが国際法違反を疑われる攻撃を行ったことに対しては最大限慎重な立場を取りながら、一方でトランプ大統領とは正面から対決せずに日米関係を良好な状態に保つというミッションをこなした点は評価できるのではないかと思います。
国際法を順守すべき立場からすれば、「なぜロシアは非難して、アメリカにはだんまりなのか。ダブルスタンダードではないのか」という声が上がるのも無理はないとは思います。
確かにそうなのですが、もう一方には国際政治の現実もあり、日本の安全保障をアメリカに頼っている面がある以上、不必要にアメリカを刺激して日本の側から摩擦を引き起こすのが得策かどうかは考える必要があるでしょう。
頭ごなしに国際法違反を指摘してトランプ大統領を怒らせるよりも、日本にとって望ましい状況に誘導することの方が重要なのではないかと思います。
良好な日韓関係の背景
――日韓関係も劇的に変わっています。
【千々和】『日米同盟の地政学』(新潮選書)にも書きましたが、日米同盟と米韓同盟は別々に存在しているのではなく、極東地域の安定を図るという一つの機能の中に位置づけられるものです。アメリカが極東に影響力を行使している状態が大前提となりますが、その体制を補完するためには日韓の協力が必要不可欠です。
李在明大統領は革新政権であり、もともとはかなり強烈な反日姿勢を取ってきました。一方の高市政権は保守政権で、本来であれば相性の悪い組み合わせなのですが、2026年1月の李大統領の奈良訪問、そして5月の高市総理の訪韓時には、非常に良い関係性をアピールしています。
これは2023年8月の岸田総理、尹錫悦大統領、そしてバイデン大統領という日韓米の首脳が揃って3カ国の連携強化で合意した「キャンプ・デービッド原則」の精神を、ある意味では引き継いでいると言えるでしょう。
李政権の支持層には反日的な人たちも多いはずですが、それを抑えてでも日本との関係を深める姿勢を取っています。一方の高市政権の支持層にも嫌韓的な人がいるかもしれませんが、それでもあえて韓国と手を組む。台湾有事にしても、日本は台湾と中国との関係で見ていますが、韓国にとっても大きな影響がある。こうした状況下では、日韓も協力せざるを得ないという地政学的な現実が、非常にはっきりしてきているのだと思います。


