このままでは「不利な戦い」へ引きずり込まれる

野党の一部は「偽証」という言葉を使い始めています。ここで少し整理が必要です。

国会での偽証罪が成立するのは、狭義において、証人が議院の委員会において宣誓のうえ行った証言が虚偽だった場合に限られます(議院証言法)。高市首相の国会答弁は通常の質疑応答であり宣誓を伴うものではないため、厳密な意味での「偽証罪」がただちに問われるわけではありません。野党が現時点で問い続けているのは、刑事法上の偽証罪ではなく、政治的・道義的責任としての「国会における虚偽答弁」です。

とはいえ、国会答弁における虚偽は政治的に重大な問題です。議院内閣制において首相は国会の信任を得て成立しており、国会に対して真実を述べる義務を負うと解されてきました。答弁の虚偽が明らかになれば、野党は改めて証人喚問を求めることになります。証人喚問では宣誓が義務付けられ、そこで虚偽の証言をすれば偽証罪が成立しえます。野党の戦略は、通常答弁での矛盾を積み上げてから証人喚問へ引き込むという、二段構えになっています。だからこそ、退けない高市早苗の根性が、どう考えても不利な戦いに誘導されていくことは非常にビッグな懸念として受け止められます。

官邸が機能不全に陥った背景事情

与党内の一部にも、このまま放置すれば参院選への影響が避けられないとの危機感があります。高市首相の側近を含む官邸サイドは事態の沈静化に向けた対応を模索しているとみられますが、肝心の首相自身が事態の収拾に向けて内部調整を進められない状況が続いていたようで、明らかに対応は後手に回ってしまっています。というか、今回の件にしても秘書の木下さんに対し、その上司でもあるはずの高市早苗さんとちゃんと話ができていなかったようなのです。

どうして話をせんのや……と思いますが、思い出されるのは前回の奈良県知事選で、奈良県連の代表であった高市早苗さんが、総務大臣時代の秘書官で子飼いのイケメン・平木省さん(現・静岡県副知事)を自由民主党候補として擁立したところ、なんと前任知事の退陣を握れておらずブチ切れられ、結果的にこれといった意味もなく保守分裂してしまい、なぜか維新系の奈良県知事が爆誕してしまうという「どうして一言も調整しないんだ」という金字塔が打ち立てられておるのです。どう考えても、今回の一件もまた、まったく同じ構造でやらかしてしまっておるわけですね。常識的には「お前、アレどうなんや」ぐらい尋ねると思うんですが……。

ジェイソン・クーバス米総領事の言葉に反応を示す、奈良県の山下真知事
平木氏を破って当選を果たした奈良県の山下真知事(左)(写真=在大阪・神戸米国総領事館/PD US DOS/Wikimedia Commons

一事が万事、いまの高市官邸の機能低下の理由の99%は高市早苗さんからちゃんとした指示が下りてこないので何をしていいのか周辺もよくわからんし、事態の収拾に乗り出すことがむつかしいということに尽きており、今回のように「しょうもない話だけど、関係者が連携してちゃんと乗り切らないと面倒な政局になってしまう」案件では眉間に直撃を喰らうことになります。あーあ。

参照:朝日新聞〈高市早苗氏「高熱続いて応援できず」 奈良県知事選で候補者敗北うけ〉2023年4月9日