「作って終わり」ではない日本式サポート

パートナー国の質を測るうえで、リスクの見極めと並んでもう一つ、重要な視点がある。技術パートナーが受注国にどれだけの技術移転を行えるかだ。

高速鉄道は決して、開業をもってゴールというわけではない。完成後も数十年にわたって車両の製造と保守を続けなければならない。日本はこの分野で、本国以外にもイギリスとインドの2カ国で実績を積んできた。

イギリスでは、日立とアルストムの合弁会社が高速鉄道英国高速鉄道のHS2の車両54編成を一括受注した。設計・製造・保守を一手に担う包括契約だ。

HS2によると総額は約20億ポンド(約4300億円。6月1日現在のレート、1ポンド214.5円で換算)。ダービーとカウンティ・ダラムに製造拠点を構え、イギリス国内で2500人の雇用を生む見通しである。新幹線と欧州高速鉄道の技術を掛け合わせた設計で、イギリスの工場で量産を進める。車両を輸出するのではなく、ものづくりの基盤を現地で育てる発想だ。

技術移転の柱はもう一つある。人材育成だ。インド英字日刊紙のフリー・プレス・ジャーナルは今年2月、インドのムンバイ―アーメダバード間の高速鉄道の開業に向け、鉄道員15名がJICA(国際協力機構)とJR東日本の協力のもと、日本で運転士訓練を受けていると報じた。運転操作の習得はもちろんのこと、「指差し確認」に代表される安全運行の所作など、現場に求められる日常的な心得を身につけることにも重点が置かれる。

来年着工、2042年延伸…日本の出番は近い

以上、地震を見越した安全対策から、運用実績に騒音対策、そして政治情勢や人材育成まで、複数の観点から日本・欧州・中国の技術を比較した。

より細かな項目を比較すれば、一様に日本が優位なわけではない。例えばエネルギー効率では、欧州勢になお分がある。米工学専門誌のIEEEスペクトラムの比較では、新幹線の旧型車両は約0.35MJ/pkm(旅客1人・1キロ当たりの消費エネルギー)。フランスのTGVやドイツのICEの約0.2MJ/pkmには届かない。

だがN700Sの改善により、この差は着実に縮まっている。騒音対策で培った長年の技術蓄積と合わせれば、環境面の総合力に遜色はない。オーストラリアが求めるのは、あらゆる項目で首位に立つことではない。全条件を満たす総合力だ。

オーストラリアの高速鉄道計画は、すでに具体化しつつある。シドニー・モーニング・ヘラルドが伝える鉄道公社案は、3段階で進む構想だ。まず来年、ニューカッスル―セントラルコースト間に着工し、工期12年を見込む。2039年にシドニー中心部へ、2042年にはパラマタおよび西シドニー空港へと延伸する。

オーストラリア高速鉄道のイメージ写真(出所=オーストラリア政府)
オーストラリア高速鉄道のイメージ写真(出所=オーストラリア政府)

さて、日本の新幹線と共に歩んできた、オーストラリア出身の人物がいる。英語アナウンスを約20年担当するドナ・バーク氏だ。ガーディアンの取材に、こう語った。

「新幹線は、私が日本で最も好きなものを体現しています。仕事への誇り、他者への奉仕の精神、効率性、そして信頼性です」

その誇りと信頼性に裏打ちされた鉄路を、今度はオーストラリアが手にする番となるだろうか。

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