オーストラリアが求める条件

地元紙ニューカッスル・ヘラルドが報道した豪政府の独立助言機関インフラストラクチャー・オーストラリアの評価によると、第1段階に課された目的は大きく4つに整理できる。すなわち、ニューカッスル・シドニー・西シドニー空港を結ぶ接続性の向上、沿線の住宅・人口・経済の成長、雇用やサービスへのアクセス改善による生産性の向上、そして二酸化炭素排出量を抑制した移動手段としてネットゼロ目標へ貢献することである。

とりわけ重みを持つのが住宅だ。同評価によれば、計画が見込む便益の58%は沿線の土地利用状況が変化することで生じ、利便性向上によって4万6000世帯分の住宅の受け皿が新たに生まれると試算されている。背景には、この高速鉄道沿線に2061年までにオーストラリア人口の24%にあたる920万人が住むとの見通しがある。

【図表】建設が計画されているオーストラリア高速鉄道の路線
出所=オーストラリア政府

この「要件」を考えるうえで示唆的なのが、豪州・ニュージーランド公共交通協会PTAANZのローレン・ストライファー代表の言葉だ。世界各地で高速鉄道が成功してきたと述べたうえで、「日本では住宅をより手頃にし、住む場所の選択肢を広げた」と語り、同じ効果をオーストラリアでも期待できると指摘する。

つまりオーストラリア政府は、高速な移動手段さえ完成すれば良いと考えているわけではない。先に挙げた4つの観点(接続性、住宅と人口、生産性、ネットゼロ)を同時に満たす総合力こそが問われている。翻って日本の新幹線において、長年の安定運用を支えてきた信頼性は、雇用やサービスへのアクセスを高める生産性と、都市間を確実に結ぶ接続性に貢献する。さらに、都市近郊でも騒音を抑え込む技術は、沿線都市を発展させ人口を呼び込むうえで欠かせない条件だ。これらの点で、日本の新幹線方式は有力な候補となりうる。

「地震対策」では日本の新幹線が優位

オーストラリア高速鉄道計画の技術パートナーとして、日本が優位性を持つと考えられる大きなポイントの一つが、万一の地震への備えだ。

高速鉄道のルートは、オーストラリア近代史に深い傷を残した土地を貫く。1989年12月28日、ニューサウスウェールズ州ニューカッスルをマグニチュード5.6の地震が襲った。労働者の社交場だったニューカッスル・ワーカーズ・クラブが崩壊するなど被害は市内全域に及び、9人が死亡。オーストラリア地方紙のニューカッスル・ヘラルドは、約3000棟の建物が損壊し、被害総額は40億豪ドル(約4500億円)を超えたと報じている。

この被災地を縦貫する形で、高速鉄道が走ることになる。将来起こるおそれのある地震災害を見据え、被害を最小限に抑えられる公算が大きい技術の一つが、日本の新幹線方式だ。

面積当たりで世界トップクラスに地震が多い国でありながら、日本の新幹線は開業以来、地震による乗客の死傷者をただの一人も出していない。