建設コストという難題
以上のような技術的な性能に加え、建設コストを計画どおりに管理できるかという問いもまた、技術パートナーを選ぶ上で譲れない基準だ。中国主導のプロジェクトでは、この点で深刻な問題が繰り返し露呈してきた。
象徴的なのが、インドネシアのジャカルタ―バンドン間高速鉄道「ウーシュ」だ。米外交専門誌のディプロマットによると、国営鉄道会社KAIのボビー・ラシディンCEOはインドネシア国会の公聴会で、同プロジェクトの財務状況を、「まさに時限爆弾に似た状況だ」と警告した。
就任して初めてプロジェクトの実態を把握したというラシディン氏は、国鉄運営会社KAIと中国との合弁会社KCICの双方が抱える財務・運営上の問題の深刻さを認めている。トップが代わるまで全容が表に出なかったことからも、このプロジェクトの不透明さは明らかと言えよう。
当初の見積もりは60億米ドル(約9500億円。6月1日現在のレート、1米ドル159.48円で換算、以下同)。コロナ禍で工期が遅延し、土地収用も難航した結果、建設費は73億ドル(約1兆1600億円)にまで膨れ上がった。同誌によると、2023年2月に両国政府が確定させた超過費用は約12億米ドルにのぼる。当初予算の約2割が後から上乗せされた計算だ。
中国勢は1キロあたりの建設単価の安さを売り文句にする。だが、ウーシュの大幅なコスト超過を見れば明らかなように、たとえ着工時点での皮算用が安く上がろうとも、現実的にプロジェクト総費用を抑えられるとはかぎらない。
良好な外交関係は欠かせない
高速鉄道は建設から保守まで、技術パートナーとの関係が40年、50年と続くインフラだ。予算管理の見通しやすさと並んで調達判断を左右するのは、その相手国と政治的に良好な関係を、半世紀にわたって保てるか否かである。
豪中関係の緊張が一気に表面化したのは、2020年のことだ。オーストラリアが新型コロナウイルスの起源について国際的な調査を求めると、当時の中国大使は即座に反発。中国の消費者がオーストラリア産ワインや牛肉、観光をボイコットするだろうと警告した。一連の騒動を、米ビジネスニュース専門局のCNBCが伝えている。観光客の途絶をちらつかせる戦略は、日本への昨年からの「渡航自粛要請」とも重なる。
中国大使の言葉は、決して虚言ではなかった。同年11月、中国はオーストラリア産ワインに反ダンピング関税を発動し、ロブスターや木材、大麦の輸入も停止・制限した。
中国大使館は14項目に及ぶ不満リストを突きつけ、安全保障を理由とする中国企業の対豪投資10件の阻止などを槍玉に挙げた。北京ではオーストラリア国籍のテレビキャスターが拘束される事態にまで至っている。
両国間は軍事面でも緊張関係にある。
CNBCによれば、昨年2月、中国海軍はオーストラリアとニュージーランドの間の公海上で、十分な事前通告なしに実弾による射撃演習を実施した。民間の航空会社が航路変更を余儀なくされるほどの規模だった。ペニー・ウォン豪外相は中国の王毅外相に対し、通告が不十分だったとして懸念を表明している。
こうした経済制裁や軍事演習により、オーストラリアの対中感情は決して良好ではない。
