かつてW杯放送権は推定6億円だった
かつては、テレビ全盛の時代だった。1998年のフランス大会、日本代表が初めてW杯に出場した時、多くの人々はテレビの前に陣取った。「みんなで同じ瞬間を見る文化」だった。この大会、NHKがFIFA側に払った国内放送権料は約6億円(1)だった。
その頃、テレビ放送に加え、人工衛星(BS放送やCS放送)を経由して、テレビなどの電波を各家庭へ直接送信する放送システム「衛星放送」が登場した。母国開催となった2002年のW杯日本・韓国大会では、メディア界に激震が走った。CS放送のスカイパーフェクTV!(現・スカパー!)が放送権獲得争いに参入したからだった。
結局、スカイパーフェクTV!とジャパン・コンソーシアム(JC=NHKと民放連による共同放送機構)が放送権を獲得した。FIFA側に支払った金額は一気に跳ね上がり、いずれも放送権料は公表していないが、スカイパーフェクTV!が120億円、JCは66億円程度と推定された(2)。
そのあと、2006年のW杯ドイツ大会では日本の放送権料は一旦落ち着いたが、2010年の南アフリカ大会から再び、上がっていった。
スポーツメガイベントの三大収入源は、スポンサー収入、チケット収入、そして放送権料である。前者2つは限りがある、でも放送権料には天井がないのである。ほとんどビディングシステム(入札システム)のような形で金額が決まっていくため、数字がどんどん上がっていくのだった。
DAZNがテレビ局に勝てる理由
インターネットの普及に合わせ、OTT(Over The Top=ネット配信型テレビ)が台頭してきた。これは、インターネット回線を使い、ケーブルテレビや地上波放送などの既存のインフラを経由せず、動画や音楽、音声などのコンテンツを直接、視聴者に届ける仕組みである。
例えると、インターネットが世界中を縦横無尽につなぐ高速道路とすれば、OTTはその道路を走る配送事業者みたいなものか。前出のDAZNやネトフリ、ABEMA、Amazon、Prime Video、Disney+などがこれにあたる。
ついでに言えば、VOD(Video On Demand)は、好きな時に動画を見る「オンデマンド視聴」の仕組みを指す。SVODとは「Subscription Video On Demand(定額制ビデオ・オン・デマンド)」の略称で、毎月(または毎年)の定額料金を支払うことで、動画コンテンツを期間中何度でも自由に視聴できるサービスモデルのことだ。これが広がった。
OTTの存在がとりわけ話題になったのは、2021年、DAZNがW杯アジア予選の日本国内の独占配信権を主催者のアジア・サッカー連盟(AFC)の放送権を管理する代理店と契約した時だった。
ホームでの日本代表戦は、地上波のテレビ朝日が、DAZNから放映権(サブライセンス)を購入して放送したが、W杯出場が決まる2022年3月、アウェイ(敵地シドニー)でのオーストラリア戦は地上波がその権利を購入できず、結局、地上波テレビではW杯出場決定の瞬間が放送されなかった。確か、ちょっとした騒ぎになった。日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長(当時)らが「地上波へのサブライセンス提供」をDAZNにお願いしたが、事態は好転しなかった。

