「逃げ恥」にみる結婚の経済学

前節では、国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」のデータを確認することを中心に、人々が結婚しなくなっている現状とその背景について基礎的な考察を行ってきた。こうした調査も非常に有益だが、政府関係機関による公的な調査・統計という性質から、良くも悪くも「行儀の良さ」があり、ややイメージが湧きづらいところが残るのも否めない。この点では、民間の有識者による考察を加えることが有益である。

2016年のテレビドラマ「逃げ恥」(逃げるは恥だが役に立つ)を題材に結婚を経済的観点で考察した白河桃子・是枝俊悟これえだしゅんご(2017)『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』は次のように指摘している。

結婚とは、かつては「永久就職」「食いっぱぐれがない」アイテムであり、男性にとっても「大黒柱としての義務つきの居場所」「社会的承認」でもありました。「愛」「セックス」「子ども」「介護」などが「幸せ」という甘いコーティングにくるまれて、まるっとセットでついてきた。しかし今や「結婚したら食いっぱぐれがない」を女性たちは信じていないし、男性は「コスパ」を気にしています。

非常に率直な表現で、人により好みは分かれるかもしれないが、それだけに政府調査等に比べて「リアル」なイメージに近い感もある。一言で言えば、男女それぞれ異なる理由で結婚の魅力が低下しているということになると思うが、筆者は男性なので男性側目線について最初に検討してみたい。

なぜ結婚の魅力は低下したのか

まず、男性にとって結婚の「コスパ」が良くないことが多いということ自体は、おそらく昔からそれほど変わっていない。昔の男性サラリーマンは、会社からもらった給料を妻に全て渡して管理を委ね、そこから「お小遣い」をもらうという行動をとることが多かった。結婚する前はそうした「お小遣い」よりも大きな金額を自由に使えていたはずだが、「家を守るのは女の仕事」という価値観のもと、結婚後は家庭内における金銭面の差配を妻に一任していたわけである。結果として、金銭面では結婚によって貧しくなることが多かったのだろう。

そうした金銭的な面でのコスパの悪さを知りながらも昔の男性の圧倒的大多数が結婚したのは、前述の通り結婚が義務的であったことに加え、白河桃子・是枝俊悟(2017)が指摘している通り「社会的承認」を求めたからだろう。つまり、「男は結婚して所帯を持ってようやく一人前」のような価値観が強固に存在していた時代には、ずっと独身のままでいると「半人前」とみなされたのだろうし、その結果として現実的な社会的不利益を被ることもあったのだろう。

しかし、現代においてそうした感覚(「結婚してようやく一人前」)は乏しくなっている。少なくとも筆者は、「結婚していないから自分は一人前ではない」という感覚を全く持っていないし、独身であることにより社会的不利益を被った感覚もない(自覚がないだけで現実には何かあったのかもしれないが)。

数年前までは「独身いじり」も多少あったと思うが、最近のハラスメント基準のもとではそうしたことも許されなくなっている(そうした感覚にキャッチアップできていない50代以上の人が「なんで結婚しないの?」などと無邪気に言ってくることは今でもたまにあるが)。