イラン紛争で台湾周辺は手薄に

経済面に加え、中国は地政学的にも追い風を受けている。対イラン戦争だ。トランプ政権は自らこの戦争に踏み切ったことで、意図せず中国に外交の手札を渡す結果を招いた。

トランプ政権が対イラン戦争に手を取られてきた過去数カ月の間に、習近平国家主席は和平の仲介者としての立場を高めてきた。

ニューヨーク・タイムズが指摘するように、湾岸諸国や欧州の要人が相次いで北京を訪れている。さらにトランプ訪問直前にはイランのアラグチ外相も訪中するなど、戦火の当事者・アメリカではなく中国に危機の収拾を頼るという構図が出来上がった。

中国はアメリカの制裁に対しても強気の姿勢を見せた。今春、米政府はイラン産の原油を購入したとして中国の精製業者に制裁を科した。これに対し中国政府は、制裁を無視するよう国内企業に指示したと同紙は報じている。アメリカの制裁体制を正面から突き返した格好だ。

対イラン紛争により、アジアにおける米軍の態勢も損なわれた。米軍はアジアに配備していた軍事リソースを中東に振り向け、弾薬の備蓄も大きく目減りした。トランプ政権はみずから始めた戦争で、アジアでの対中抑止力まで削る結果を招いたことになる。

中国の強硬派学者は、これにより中国は台湾問題での強気姿勢を強めたとみる。上海・復旦大学のアメリカ研究の第一人者、呉心伯氏は、「イランとの紛争で、アメリカが台湾をめぐり、中国との大規模戦争に長期にわたり持ちこたえる能力がないことが明確になった」と同紙に語った。

トランプ政権は自ら起こした戦争により、はからずもこうしたタカ派の強気を裏打ちした格好だ。

中国が嫌う米メディアをトランプ自身が封じた

中国のネットユーザーは、実はトランプ氏の弱みを数年前から見抜いていた。

彼らはトランプ氏に、「川建国」というニックネームを付けている。中国語で「国を建てるトランプ」を意味する皮肉だ。トランプ氏の中国語名「川普」の「川」に「建国」を掛けたもので、第1期政権時代に中国のネット上で広まった。

CNNによれば、川建国のあだ名には、トランプ氏が孤立主義的な外交を進め、さらにはアメリカ国内の分断を深めた結果、中国の台頭を後押しする形になっている――との冷ややかな笑いが込められているという。中国のSNS「ウェイボー(微博)」には、「建国同志よ、そしてイーロン・マスクよ、ありがとう。どうかお元気で」などの投稿が並ぶ。

中国のネットユーザーからは「川建国(国を建てるトランプ)」と揶揄されている
中国のネットユーザーからは「川建国(国を建てるトランプ)」と揶揄されている(写真=Molly Riley/The White House/PD US Government/Wikimedia Commons

その皮肉を地で行く形で、トランプ大統領は海外向け放送局VOA(ボイス・オブ・アメリカ)やRFA(ラジオ・フリー・アジア)を事実上機能停止に追い込む大統領令に署名した。いずれもアメリカ政府の出資で運営されるメディアで、中国を含む権威主義体制の国々に向けても放送し、人権問題や宗教的自由の制限を批判的に報じてきた。

中国政府はこうしたメディアに電波妨害やウェブサイトのブロックで応じ、弱体化を長年狙ってきた。だが、ここに来てトランプ政権が自らの手で、自国メディアを骨抜きにした格好だ。CNNは、「中国のナショナリストや国営メディアは、歓喜を隠しきれなかった」と切り込んでいる。

反面、中国は自らの発信力拡大を虎視眈々と狙う。

習近平国家主席のもとで掲げたのは、国際社会における言論の主導権を意味する「話語権」の獲得だ。2018年には海外向け3放送局を統合し、「中国の声(中央広播電視総台)」を創設。海外での発信力を強化し、独自の価値観を普及させる動きが目立つ。