「悪人でも最後まで戦ってあげる」
文明史を下地に、計算高くもアメリカの出方を問うた習近平氏。対するトランプ氏は、習氏の長所を挙げ個人レベルで友好を高める姿勢に終始した。
この落差は、どこから来るのか。トランプ氏の性格上の弱みに起因するものだと、会談に先立って自身が明かしている。今年4月、ホワイトハウスで開かれた非公開のイースター昼食会でのことだ。
信仰をテーマにしたその席で、トランプ氏は驚くほど率直だった。
ロシアのプーチン氏など、なぜ問題のある人物とも関係を結ぶのかと問われると、「誰かが親切にしてくれると、その人が好きになってしまう。たとえ悪い人間でも。どうでもいい、最後まで共に戦ってあげるんだ」と語った。
善悪の判断より自分への態度を優先すると、大統領自身が認めたに等しい。米政治・文化ニュースサイトのデイリー・ビーストが、この発言を収めた映像を伝えている。誤って外部に公開され削除された映像であり、本来は外部に漏れるはずのない告白だった。
この告白を裏づけるように、トランプ氏は少なくとも8年にわたり、習氏への称賛を繰り返してきた。
ハーバード大附属シンクタンクのベルファーセンターの発言録によると、2018年のG20で、「非常に特別な関係」、翌年の大阪サミットで、「友人になった」、2020年のダボスでは、「愛し合っている」と語った。公の場で中国に言及するたびに、より熱のこもった言葉で習氏を称えた。
2024年に入ると、トランプ氏はさらに称賛を強めた。7月に、「中国が大好きだ」と述べ、10月のポッドキャストでは習氏を、「14億人を鉄の拳で支配する天才」と持ち上げてみせている。
独裁体制さえ称える“お世辞攻勢”
遡れば、2018年3月にも異例の発言を行っている。
フロリダ州の私邸マール・ア・ラーゴでの資金集めパーティーで、トランプ氏は習氏が事実上の終身指導者となっている現状(2018年の憲法改正で国家主席の連続2期制限が撤廃された)に触れ、「素晴らしいと思う。私もいつか、同じことを試してみなければならないかもしれない」と評した。
独裁体制とも言える習近平氏を称賛するばかりか、自身も権威主義への羨望をのぞかせる内容だ。
相手国への賛辞は、トランプ氏なりの計算に基づくという。ウォール・ストリート・ジャーナルは5月14日、会談に関連し、「習近平とトランプの会談――主導権を握るのはどちらか」と題する対談動画を公開した。
この中で、同紙のアレックス・ワード記者(国家安全保障担当)がトランプ氏に関し、「個人的な関係が良好であるならば、二国間関係も自動的に良好になると信じている」との分析を示している。
これが正しければトランプ氏には、習近平氏のご機嫌取りをするほど、アメリカの国益を通しやすくなるとの計算があるのだろう。
だが、一方的な賛辞を重ねれば、中国は増長しアメリカの足元を見る結果に終わりかねない。こうして幾度も重ねられた、お世辞と称賛。そのパターンの延長線上に、今回の会談がある。
習氏はアメリカに尻込みすることなく、「トゥキディデスの罠を超える答えを共に書こう」と踏み込み、対中姿勢の再考を問うた。
一見して歴史哲学を持ち出した論理にも見えるが、核にあるのは、トランプ氏自身が弱いと認めるお世辞の構造だ。トランプ氏を「歴史の共同著者」、すなわち世界を導く対等な指導者へと持ち上げ、賛同を迫る論理にほかならない。
親切にされると、相手を好きになってしまう。トランプ氏が自ら認めたその弱点を見透かし、同調を迫った一手である。
