9年前の紫禁城のディナーから格下げ

アメリカと中国の力関係は、この9年で大きく変わった。2017年11月、トランプ氏が初めて大統領として北京を訪れたとき、習近平氏は別格のもてなしで迎えたものだ。

ブルームバーグによれば、当時の訪問は「国賓訪問プラス」と称された。紫禁城での非公開の晩餐会。天安門広場でのパレード。そして2000億ドル(約32兆円)を超える二国間契約の発表式典。紫禁城は歴代皇帝の宮殿にして、中国における国家権威の最高の象徴であり、そこでの晩餐は最上級の敬意を表す。

だが当時のトランプ氏は盛大にもてなされても、行動を変えることはなかった。会談の翌年、トランプ氏は対中貿易戦争の第1弾を発動する。

前回会談から9年。ブルームバーグは今、中国のほうがより強い交渉カードを握っていると分析している。かつて貿易戦争を仕掛けた側が、今ではかえって手札を減らした格好だ。

今回の訪中で、会談後にトランプ氏が案内されたのは、紫禁城ではなく天壇公園での散策だった。かつて皇帝が五穀豊穣を祈った祭祀施設で、今は世界遺産に登録された観光名所として知られる。権力の象徴たる紫禁城に比べれば、外交の舞台としての重みは一段格が落ちる。

天壇・祈年殿
天壇・祈年殿(写真=Shujianyang/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

NBCニュースによれば、現職のアメリカ大統領が天壇に案内されるのは、1975年のジェラルド・フォード大統領以来、実に半世紀ぶりのことだ。

トランプ氏は格の落ちた扱いに、何を感じただろうか。記者団に対しては、「最高だ。素晴らしい場所だ、信じられないほどだ。中国は美しい」と賛辞を述べるにとどまった。

トランプ自慢の「17人CEO軍団」を帯同

トランプ氏も無策だったわけではない。今回の訪中で同氏は、アメリカの大企業幹部、実に17人を帯同させた。

アップルのティム・クックCEO(今年9月付で退任予定)、ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモンCEO、テスラのイーロン・マスクCEOら、各業界の重鎮がずらりと名を連ねた。

米ブルームバーグはその目的について、「トランプ自身の影響力と、アメリカ企業が対中ビジネスに有する影響力、その両方を誇示するショーマンシップ」だと分析している。

だが、この壮大な顔ぶれは、むしろアメリカ側の弱みを物語っている。今年4月の一件を見れば、それは明らかだ。

メタが中国のAIスタートアップ「マナス」を20億ドル(約3200億円)規模で買収しようとしたところ、中国当局がこれを阻止したと、ブルームバーグが報じている。マナスはすでに、シンガポールに本社を移転済みだったにもかかわらず。

もはや米テック大手は、中国の顔色を窺わずには自社の事業判断すら行えない。帯同した17人の布陣も、こうなると中国に力を誇示するショーマンシップどころか、ご機嫌伺いにすら見えてくる。

CBSニュースによると、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOら同行幹部は、人民大会堂の歓迎式典でトランプ政権高官と肩を並べた。

同行した各社にとって、中国は無視し難い大規模市場だ。なかでもエヌビディアは中国向けの高性能チップ販売拡大に前のめりで、アメリカ側が存在感を示して中国に圧力をかけるどころか、実態は売り込みに近い。

米テック企業の隆盛をひけらかすべく連れてきたはずのCEO軍団だったが、中国市場への深い依存をかえって白日の下にさらした格好だ。

2026年5月14日、北京の人民大会堂でトランプ米大統領に同行してきた米国の経営者らと会談
2026年5月14日、北京の人民大会堂でトランプ米大統領に同行してきた米国の経営者らと会談(写真=The White House/PD US Government/Wikimedia Commons