わら細工業界の発展を願って

わらむを立ち上げた時は400万円に満たなかった売上が、2026年度は7000万円を超える見込みだという。

人気商品のわら飾り「レレレ」。商品を生み出した本人しかつくれないような繊細なつくり
人気商品のわら飾り「レレレ」。商品を生み出した本人しかつくれないような繊細なつくり(写真提供=わらむ)

人材の育成や乾燥機などの設備に投資していたためずっと赤字続きだったが、2025年に初めて黒字化した。稼げないために後継者が育たず担い手がどんどんいなくなっていた業界で、会社が潰れず継続してこられたことに酒井さんは手応えを感じている。

今の課題は何かと聞くと、「僕の健康面ですね」と苦笑いが返ってきた。

「人よりかなり睡眠時間が少ないので、長生きできないかもしれません。僕がいなくなるとたぶんすべてが終わってしまうので、今は経営を担ってくれる人を探しています。みんな技術は持っているので、彼らを引っ張って経営してくれる人がいると安心ですね」

わらむは相撲や神社など日本の伝統を支える、日本にとってなくてはならない会社になっているはずだ。今50歳の酒井さんは、自分がいなくなった後でも継続できる体制をつくらなくては、という使命感を持っている。

お櫃を保温するわらのカゴ「わらいずみ」。現在、製作できる職人は日本に数人しかいない
写真提供=わらむ
お櫃を保温するわらのカゴ「わらいずみ」。現在、製作できる職人は日本に数人しかいない

酒井さんはわらむの存続だけではなく、わら細工業界の未来も考え、「今年中にわら細工協会をつくりたい」と話す。この業界は横のつながりがあまりなく、技術を習える場所も少なかった。全国的な組織をつくることで、わら細工の技術だけではなく歴史まで総合的に学べるようにすることと、わら細工を教える講師を養成することが目標だ。

全国的に神社のしめ縄をつくれる人材が不足し、なかには化学繊維を使用しているところもあるという。それでは、神様は来てくれないのではないか。「奈良の神社のしめ縄は奈良の職人がつくったほうが、神様は喜ぶと思う」と酒井さんは考える。わら細工協会をつくって人材を育成し、地元の人が神社のしめ縄をつくれるようになることを目指す。

手際よくしめ飾りをつくる酒井さん
写真提供=わらむ
手際よくしめ飾りをつくる酒井さん

神様を信じないタイプだったのに

さまざまな神事に関わり、取材中も「神様」に言及することが多かった酒井さん。最後に、「もともと信心深いタイプだったんですか?」と聞いてみた。

「神様とかはまったく信じてなくて、自分で切り拓くタイプだったんです。でも、この業界に入ってから、神様って本当にいるんだなと感じるようになりました。土俵の話が来た時もそうですが、つらくて大変なときに助けがくるし、やっぱり神様は見てくれているんだなと思います」

インドで倒れた時に「役に立つ人間になります」と誓ったのは、「単なる困った時の神頼みだった」と酒井さんは笑う。けれど、真摯にわらと向き合う酒井さんの姿を見て、神様はその誓いをちゃんと見届けているような気がした。

【関連記事】
【写真をみる】わらを編む酒井さん
【写真をみる】わらで編んだ猫の家「猫つぐら」
愛子さまが食べた"開けてビックリ"の駅弁とは…老舗駅弁屋が効率化の時代に「手作り」にこだわり続けるワケ
「Fランク大学卒を採用してハズレたことがない」そう断言するひろゆきが履歴書で必ず確認すること
子供の命を奪った犯人とすぐに交尾する…ゴリラの母親が「死んだ子供」よりも「強いオス」を優先する残酷な理由