ミラノオリンピックで金メダルを獲った「りくりゅうペア」のブレードをつくったのは名古屋にある創業99年の老舗特殊鋼商社山一ハガネだ。開発を始めた当初は社内から反対の声が大きかったという。それでもなぜ続けたのか。ライターの中谷秋絵さんが社長と開発者を取材した――。

スケートブレード開発への挑戦

ミラノ・コルティナオリンピックのフィギュアスケートペア種目で、日本人初の金メダルを獲得した「りくりゅうペア」こと三浦璃来選手と木原龍一選手。2人が使用したスケートブレードを製造しているのが、名古屋の特殊鋼商社山一ハガネだ。同社は自動車部品の金型づくりで高い技術力があったものの、スケートブレードを製造した経験はなかった。小塚崇彦選手との出会いから、初の試みであるブレードの開発が始まった。

山一ハガネ 代表取締役社長 寺西基治さん
撮影=中谷秋絵
山一ハガネ 代表取締役社長 寺西基治さん

まずは、小塚選手のブレードをスキャナーで取り込み、分析することから始めた。山一ハガネでは50種類以上の特殊鋼を扱っており、その中からブレードに必要な硬さと粘り(靱性)に優れた4種類を選んで加工を開始。最初は、どの機械や工具を使用して、どの順番で削っていくかなどを試しながら、1つのブレードをつくるのに30時間以上かかった。まずはやわらかい素材で試してみたものの、実際に使ってみるとすぐに曲がってしまう。試行錯誤を繰り返し、1~2種類の材料に絞っていった。

加工途中のブレード。1つにかかる加工時間は、現在5~6時間にまで短縮した
写真提供=山一ハガネ
加工途中のブレード。1つにかかる加工時間は、現在5~6時間にまで短縮した

最適な素材を見つけるまで100足以上

熱処理工程も工夫した。通常の自動車金型をつくる時の手順は、まず荒加工で削り、熱処理をしてから、最後に仕上げの削りを行う。しかし、金型と違ってブレードは薄いため、削った後に熱を加えると曲がってしまう。そこで、最初に熱処理を施し、削った後は熱を加えないレシピを採用した。

実際に小塚選手に履いてもらい、フィードバックを反映しながら完成に近づけていった。開発担当の石川マネージャー自らスケートリンクに出向き、滑り心地を確認したこともある。スケート自体は素人だが、ある程度の強度は実感できるそうだ。さらに、「ひと蹴りの伸びは素人でもわかる」という。それほど、従来のブレードとは異なっていた。

「リンクで無理やりジャンプしたこともあります。氷に穴が空くから飛ばないでください! って怒られましたけどね」と石川さんは笑う。

試行錯誤を繰り返し、最適な素材と加工方法を見つけるまで100足以上を試した。