曲がらないブレードがほしかった木原選手

2018年、小塚選手からKOZUKA BLADESの評判を聞いた「りくりゅうペア」の木原選手が会社を訪ねてきた。木原選手は2014年のソチ五輪、2018年の平昌五輪に出場するも、下位に終わっていた。さらに、肩の怪我でペアを解消し、練習もできていない状態。名古屋市内にある邦和スポーツセンターでアルバイトをしながら、次のパートナーを探している時期だった。

木原選手は体格がよく、その分ブレードに体重がかかり、プレートがハの字に曲がってしまうことがしょっちゅうだった。しかし、小塚選手や宇野選手らソロで活躍する選手たちが脚光を浴びていたことに比べ、フィギュアのペア種目も木原選手も圧倒的に知名度が低く金銭的にも苦しい状況にあったため、頻繁にブレードを変えられず、曲がったままの状態で使い続けるしかなかった。

「とにかく曲がらないブレードがほしい」と木原選手は願った。変形したブレードを使い、本来のパフォーマンスが発揮できないことに本当に困った様子だったという。

りくりゅうペアの活躍が飾られる山一ハガネのエントランス
写真提供=山一ハガネ
りくりゅうペアの活躍が飾られる山一ハガネのエントランス

木原選手の悩みを聞き、石川さんは数カ月かけて調整。できあがったブレードを木原選手に渡すと、とにかく「曲がらない」ことだけで大絶賛だった。さらに、今までのブレードに比べて滑りの伸びもまったく違うと喜んだ。木原選手の滑りが速くなったことで、動きが合わなくなってきたため、2019年からパートナーを組む三浦選手も2020年にブレードを変更。2人そろって、YS BLADESで試合に臨むようになった。

滑りが速くなる理由

YS BLADESはつなぎ目のない一体構造だから、耐久性が上がるのは理解できる。しかし、「滑りが速くなる」のはどういった原理なのだろうか。

「実は正確な理由はまだ掴めていないんです」と石川さんから驚きの答えが返ってきた。

石川さんは速くなる理由をつかもうと、熱伝導率や材質のためかと調べてみたが、どうやら違う。そもそも、なぜブレードで氷の上を滑れるのかという原理自体が、科学的にもまだ解明されていないという。

石川さんたちは、理由を次のように推測している。YS BLADESはミクロン単位で調整できる山一ハガネの機械と技術でできており、左右が完璧なシンメトリーだ。人間の手でパーツを溶接するブレードでは、どうしてもズレが生じるが、YS BLADESにはそれがない。完璧な構造が選手の重心を1点でしっかり支えるため、氷との抵抗がなくなる。

さらに、グッと力を加えても、特殊鋼ならではの粘り強さで耐えられる。これらの要素が組み合わさって滑りが速くなるのではないか、と石川さんは考える。

「しかもこれ、ちゃんと自立するんですよ」と石川さんはブレードを机に立てて見せてくれた。こんなに細い刃でも、自立するとは。それほどまでに、精密にできているのがYS BLADESなのだ。