全国100の神社にしめ縄を納める

2022年には、春日大社で20年に一度ある「式年造替ぞうたい」のため、しめ縄づくりの依頼を受けた。直径14センチ、長さ25メートル、重さ200キロの巨大なしめ縄だ。全国にネットワークがあるはずの春日大社でも、この大きさのしめ縄をつくれる職人を見つけられず、酒井さんに連絡が入った。「わらむに断られたら、もう神様を迎えられない」と切羽詰まった様子だったという。

わらむでは現在、全国約100社のしめ縄づくりを毎年請け負っている。多くの需要があることから、2024年に神事事業部をつくり、6人の職人で担当する体制を整えた。

春日大社のしめ縄
写真提供=わらむ
春日大社のしめ縄

捨てていたわらが「儲かる作物」に変わる

ここで、原料となるわらについて紹介したい。ここまで読んで、「わらは神事に使う大切なもの」と思っていただけたかもしれないが、農家にとってはむしろ処分に困るような存在だった。酒井さんがわらむを始めたばかりの頃は、農家にわらを買い取らせてほしいと頼んでも、「金を出してわらを買うなんて信じられない」「詐欺師ではないか」と怪しまれたほどだ。

コンバインの普及によって短く刈り取ってしまうため、製品作りに使える長さのわらを確保するのは難しい状況でもあった。

酒井さんは協力してわらを栽培してくれる農家を少しずつ増やしながら、高品質のわらを育ててブランド化した。約1500年前から伊那谷地域にあるといわれる在来種「白毛餅しらけもち米」などを含めて、6種類のわらを育てている。相撲は土につくと負けを意味するが、倒れないように工夫して栽培することで「土がつかない=負けない」と考えられる。白毛餅米は勝ちを意味する「白星」ともリンクし、もち米なので粘りがある。縁起のいいわらとして、「勝藁かちわら」と名付けた。

稲刈りの様子
写真提供=わらむ
稲刈りの様子

酒井さんは農家と協力して耕作放棄地も活用しながら、わらを栽培している。中山間地域は小さな田んぼが多く、機械化が難しいため儲からない。結果、耕作放棄地が増えるわけだ。

しかし、酒井さんはわらを米の概算価格と同じ値段で買い取っている。さらに、1回目の稲刈りを行った後に、2回目の稲が自然に生えてくる「再生2期作」も行う。1つの田んぼで2回の収益が見込めるため、小さな田んぼでも儲かる仕組みだ。

農家は儲かり、わらむは必要なわらを確保でき、放置されて荒れた田んぼが蘇る。まさに、win-winのビジネスモデルだ。稲刈りと乾燥作業はわらむが行うため、農家にとっては少ない手間で収入を上げられる。

現在、年間20トンを確保しているが、将来的には200トンに増やすことが目標だ。さらに、酒井さんは「この地域で100億円の産業をつくっていきたい」と真っ直ぐな目で語った。