国家の枠組みよりも、州をベースに思考する

州による地方自治と職業教育に加えてもう1つ、今回のドイツ研修旅行で我々が強く感じ入ったドイツの特性が「対外関係を重視する姿勢」である。

ナチスの悪夢を二度と呼び覚まさない。欧州の繁栄、周辺国との融和こそがドイツ繁栄の道である─。これがドイツ人の強い決意になっていて、教育も徹底されている。

「過去の反省に立って、現在の繁栄に取り込む」と、今回の旅行で出会ったドイツ人は例外なく口にした。「なぜ日本人は勝ち目のない自己主張をするのか」と逆に問われたほどである。

今は、フランス領であるアルザス・ロレーヌ地方。(AFLO=写真)

国境問題でも決して自己主張しない。ドイツはポーランドとの間にオーデルナイセ(オーデル川と支流のナイセ川で構成される国境線)の問題を抱えている。しかし、こちらから話を振っても、「それを今更蒸し返してどうするんですか?」と誰もが言うのだ。

今ではロシアの飛び地となっているカリーニングラード(旧称ケーニヒスベルク)にはドイツ語を話す市民が40万人もいて歴史的にも人道的見地からもドイツ領を主張できるはずだが、これも話題にならない。300年もフランスと領有権を争ったアルザス・ロレーヌ地方も然り。

「あそこがフランス領かドイツ領かは問題ではない。ヨーロッパ全体が1つの庭だ」と言う。

もちろん、一部にはネオナチのようにフラストレーションを高めて民族主義や排外主義に走る人もいる。しかし、多くの健全なドイツ人は、「ドイツはヨーロッパという家族の一員になったのであり、EUとユーロを守り抜くことがドイツにとって重要」と考えている。

そう考える最大の理由は、国家の枠組みよりも州をベースに思考するから。つまり、彼らは20世紀的な国民国家論、重商主義的国家論から卒業することによって、新しい世界に足を踏み入れ、繁栄と世界からの尊敬を勝ち得ているのだ。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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