冒頭の症例のような、生命に関わる事態では、拘束はやむをえないのだろうか。
「精神保健福祉法では厳密に対象となる患者に関する事項が定められており、身体拘束は以下の状態に該当する人等に対して精神保健指定医が慎重に判断した上で行うこととなっています。
主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、身体的拘束以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。
ア 自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合
イ 多動又は不穏が顕著である場合
ウ ア又はイのほか精神障害のために、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合
冒頭のようなケースを防ぐには、発症する前に、兆候を把握して、ストレスコントロールするのが有効です。発症の引き金になるストレスと距離を置き、ストレスに負けないよう休養させてエネルギーを充電してあげるといった対策です。
ただし、すでに統合失調症を発症している場合には、環境調整だけでは効果はありません。世界だけでなく日本でも、座敷牢、私宅監置など、薬が無いが故に生じていた不幸もあります」(林田)
ストレスを客観的に早期把握するには
精神疾患を発症する前に兆候を早期に把握し、適切なケアにつなげることの重要性は以前から言われており、文部科学省や自治体、NPOなどが無料で使える「学生向けストレスチェック」のシートを作成して教育現場に提供している。チェックするだけでは終わらせず、その先のフォロー体制についても、実効性のある提言が多角的になされている。
オンラインを活用する新しい取り組みも進んでいる。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)が開発した「KOKOROBO」は、スマホやタブレットから
⚫︎ 最近の不安感
⚫︎ イライラ
⚫︎ 睡眠の状態
⚫︎ 身体の違和感
などを入力していくと、心の状態を示す図とコメント、そして“おすすめの対処法”が返ってくる。無料で使えて、もし中等度以上の不調が疑われれば、オンラインで臨床心理士などに相談できる仕組みも整っている。
現在公開されているのは高校生以上向けの「成人版」だが、中学生版や小学生版も開発が進んでおり、地域の医療機関と連携し、必要に応じて医師につなぐ体制も整えられている。
「ただし、これらのストレスチェックは、質問票による“主観的評価”に依存しているため、本人が気づかないストレス、気づいていても言語化できないストレス、他者には知られたくないストレスは、どうしても見逃されてしまうという問題があります」
そう解説するのは、精神疾患発症のメカズニム解明や、副作用の少ない抗精神病薬の開発に取り組んでいる大西新博士だ。
本人の主観に頼らず、客観的に、本人が感じているストレスを可視化するチェックが必要なのだ。
