連休明けに増える「五月病」を、軽い気分の落ち込みと軽視していないだろうか。頭痛や腹痛が、実は心の危機のサインである恐れがある。児童精神科医の林田麻衣子さんは「20歳未満の若者のメンタルヘルスが深刻化している」と警告する。医療ジャーナリストの木原洋美さんがその実態と対策を取材した――。
暗い廊下に一人で座り込んでいる若い女性
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10~20代のメンタル危機が深刻化

東京都の会社員・保さん(仮名)の長男(当時17歳)は3年前、メンタルの病で入院した。統合失調症だった。

勉強にあまり集中できていない、安眠できていない、ひどく落ち込んで元気がない、など兆候はあったかもしれないが、保さんには気に留める余裕がなかった。コロナ禍が収まり、社会にようやく活気が戻って来た中、業務の立て直しに必死だった。

その時は、突然訪れた。

ドンッ

深夜、長男の部屋から、大きな叫び声と共に何かを壁にぶつけるような音がした。

2回、3回、4回、立て続けに聞えて来る。

妻と二人、ドアを開けると、長男が壁に自分の頭を叩きつけていた。額が裂け、顔面も服も血まみれだ。

「ダメだ、死ぬぞ」

慌てて抱きしめ、制止するが、止まらない。小柄で大人しい息子の、どこにそんな力があったのか。すごい力だった。

妻が呼んだのだろう、救急車がやって来た。

入ってきたのは救急隊員ではなく数名の警察官だった。長男は暴れており、警察官によって制圧され、連れていかれた。頭部外傷の治療のため精神科のない病院に搬送されたが、治療後、外部から精神保健指定医が呼ばれて診察が行われ、緊急措置入院が必要と判断された。その後、指定医2名の診察を経て正式な措置入院となり、受け入れ可能な精神科病院へ転院した。

興奮や幻覚・妄想による危険行動を抑えるため、急性期の鎮静目的の注射が行われ、長男は約1週間にわたり身体拘束された。

その間はオムツを着けられ、排尿も排便もベッドの上で行うしかなかった。家に帰りたい、拘束を解いてほしいと何度訴えても届かず、再び注射で意識を落とされる。どれほど恐ろしく、どれほど屈辱的な時間だっただろう。

その後、息子は順調に回復し退院した。日常生活も問題なく送れるようになったが、あのときの体験は深い傷として残った。親子の信頼関係にも影を落としたままだった。

(いやだ、怖いよ、パパ、助けて)

搬送されるとき、息子はそう叫んでいたのに、私はただ見ていることしかできなかった。その無力さが悔しく、申し訳なかった。

息子のために、もっとできることがあったのではないか――その思いは今も消えない。

※注:この事例は、患者家族への取材をもとに構成したもので、法制度や医療者の認識とは異なる可能性があります。