「役割」が脳を活性化させ続ける

また、仕事には心理的な効用もあります。仕事をしている人は、「自分は社会の役に立っている」という実感を持つことができます。この感覚は、生きがいや意欲につながり、精神的な若さを保つ大きな力になるのです。

人は役割を持っている限り、自然と考え、行動しようとします。この「役割」こそが、脳を活性化させ続けるのです。

仕事といっても、もちろん現役時代と同じような働き方である必要はありません。短時間でもかまいませんし、責任の軽い仕事でも十分です。これまでの経験を活かして、人に教える仕事や、相談に乗る仕事なども適任でしょう。

定年は、これまでとは異なり、仕事を完全に辞める時期ではなく、「働き方を変える時期」と考えるべきです。ムリのない形で仕事を続けることが、脳を守り、心を守り、若さを保つことにつながります。

定年後も仕事を続ける人は、脳を使い続ける人です。そして、脳を使い続ける人こそが、最後まで自分らしく、生き生きとした人生を送ることができるのです。

カフェレストランで客から注文を受ける働く年配の女性
写真=iStock.com/recep-bg
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英会話教室より撮り鉄を

仕事を辞めると、「何か趣味を持ったほうがいい」「習い事をしたほうがいい」とよくいわれます。

これは正しい助言ですが、ひとつだけ大事な条件があります。それは、「自分が本当に楽しいと思えること」を選ぶということです。

70代の男性の患者さんがいました。元大手企業の管理職で、非常に真面目で責任感の強い人物です。定年後、「何もしないのはよくない」と考え、市の勧める講座にいくつも参加しました。

英会話教室、歴史講座、健康体操など、週に何度も予定を入れるほどの多忙ぶり。

ところが、半年ほどしてから、その人は私にこう言ってきたのです。

「先生、毎日忙しいのですが、まったく楽しくありません」

よく話を聞いてみると、「やりたいから」ではなく、「やったほうがいいから」という理由で選んでいたのです。

英語も、歴史も、健康体操も、本心ではそれほど興味がありませんでした。ただ、真面目な性格のため、「続けなければならない」と義務のように感じていたのです。

その結果、趣味のはずの活動が、仕事のような負担になっていました。表情も硬く、以前より元気もなくなっています。

そこで私は彼に、「本当に好きなことは何ですか」と尋ねました。

しばらく考えたあと、その男性は少し照れながらこう言ったのです。

「実は、子どものころから鉄道が好きなんです。でも、この歳で鉄道なんて恥ずかしいと思って……」

そこで私は、「恥ずかしいことなどありません。ぜひやってください」と勧めました。

その言葉に背中を押されてか、彼は近所の駅で電車を撮り始めます。さらに、次第に撮影スポットを調べ、少し遠くまで出かけるようになりました。