「遺伝」と「環境」が関与する割合

遺伝学は、現在最も研究が進んでいる医療分野の1つです。ただし、現時点では、自閉スペクトラム症が遺伝と環境のどちらによってどの程度引き起こされるのかという正確な割合は、まだ明確に特定されていません。

研究によってばらつきが大きいですが、今わかっている範囲でいうと、「遺伝」と「環境」がそれぞれ大体50%ずつ、もしくは遺伝がより多くの割合で関わっているのではないかと考えられています。そして多くの場合、両者が複雑に絡み合って発症に至っているというのが、現在の理解です。

具体的な例を挙げてお話ししましょう。HIE(低酸素性虚血性脳症)という新生児の疾患があります。これは、周産期や出生時のトラブルによって赤ちゃんの脳に十分な酸素が届かなくなることを表す疾患です。HIEを経験した赤ちゃんは、将来的に自閉スペクトラム症、知的発達症、脳性麻痺、ADHDなどの診断を受ける可能性が高いと言われています。

このHIEという疾患は、遺伝子そのものによって直接引き起こされるわけではないため、環境要因による疾患と考えられています。

しかし、ここで1つの仮定をしてみましょう。その赤ちゃんに対して遺伝子検査を行った結果、自閉スペクトラム症によく見られるとされる特定の遺伝子変異が見つかったとします。この場合、その変異は遺伝的要因にあたりますね。

すると、環境要因(HIE)に加えて、遺伝要因(遺伝子変異)も重なっていることになり、いずれ発達障害と診断される可能性はさらに高まると考えられます。

病院の保育器から見える新生児の足
写真=iStock.com/Ratchat
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原因の明確な特定は非常に難しい

では、将来的にその子が自閉スペクトラム症と診断されたとき、「環境が原因だったのか?」「遺伝が原因だったのか?」という問いにはっきりと答えることはできるでしょうか? 実際には、明確に特定することは非常に難しいのです。

そもそもなぜHIEが起こったのでしょうか? その背景に、もしかしたら「遺伝子の変異によって母体内で呼吸に関わる筋肉がうまく発達せず、生まれた瞬間に泣くことができなかったため、脳に酸素が届かなかった」といった遺伝要因が関係していた可能性も否定できません。

このように、一見すると環境要因によって起こったように見える疾患であっても、背景に遺伝による影響が存在する可能性があり、これらより両方の要因が複雑に絡み合っている、と現在は考えられているわけです。