進む「遺伝子の研究」

1956年、ヒトの染色体が46本であることが初めて判明しました。こうして見ると、私たちが遺伝子について理解し始めたのは、ごく最近のことだと感じられますね。

その後、21番染色体の異常が原因で起こるダウン症候群など、染色体レベルでの遺伝性疾患の仕組みが次々と明らかになっていきました。また、染色体を調べる検査技術だけでなく、さらに細かいレベルで特定の遺伝子を調べる技術も急速に進歩していきました。

そして2003年には、ヒトのすべての遺伝子情報を読み解く「ヒトゲノム計画」が完了しました。これにより、「人間を構成するすべての遺伝子の設計図」が明らかになり、個人ごとの遺伝的な差異を調べることが可能になったのです。

どういうことかというと、ある疾患の疑いがある人の遺伝子を調べたときに、その結果をこの「遺伝子の基準」と比較することで、どの部分に異常があるかを特定できるようになったというわけです。

たとえば、昔はNoonan症候群とLEOPARD症候群という名前の2つの疾患がありました。これらは、それぞれヌーナン医師とレパード医師が、身体的な特徴から別々のタイミングで発見し、それぞれ名前をつけたものです。

当初は別の疾患として扱われていましたが、遺伝子検査の進歩によって、どちらもPTPN 11遺伝子という同じ遺伝子の変異が主な原因であることが明らかになりました。この遺伝子の変異によって現れる症状は人によって少しずつ異なるため、症状だけを見て異なる疾患として分類されていたにすぎなかったのです。現在では分類が見直され、これらは同一の疾患としてまとめられています。

遺伝子工学の概念
写真=iStock.com/metamorworks
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遺伝子変異があったら必ず起こるのか

このような発見は、発達障害の領域でも例外ではありません。かつては全くわからなかったような、ごく小さな遺伝子変異によって起こりうる神経発達への影響が、今や年単位、あるいは月単位でどんどん新しく特定されています。

アメリカでは現在、明らかな発達の遅れや発達障害の疑いがある人に対して、遺伝子検査を積極的に勧めることがスタンダードになりつつあります。それにより、遺伝子変異が確認された患者さんのデータが日々蓄積されており、自閉スペクトラム症や知的発達症などの発達障害に関連する特定の遺伝子変異が、次々と明らかになっています。

ただし、ここで注意が必要なのは、ある特定の遺伝子変異があるからといって、必ず自閉スペクトラム症が発症するという“1対1の関係”はまだ確認されていないということです。

簡単に言えば、同じ遺伝子変異を持っていても、自閉スペクトラム症と診断される人もいれば、診断されない人もいる、また同じ診断名がついても、生活の困難具合が軽度な人もいれば重度な人もいる、ということです。つまり、遺伝子変異がその人の発達障害にどの程度影響しているのかは、一人ひとり異なるのです。