共通の目的がなければ人は動かない

① 共通の目的(Common Purpose)

どれだけ価値観が違っても、同じ方向を向く理由があれば、人は動く。本作の二者の場合も、価値観の共有ではなく、ある共通のミッションが協働の起点となる。詳細は本書に委ねるが、その目的は両者にとって等しく切実なものだ。

その共通のミッションとは何か。ここでは詳細を明かさないが、一点だけ言えることがある。それは「どちらかが生き残るための目的」ではなく、「両者が存在し続けるために不可欠な目的」だったという点だ。自分だけが勝てばいいという目的では、異星人との協働は成立しない。相手の存在が自分の目的達成に不可欠だと気づいた瞬間に、初めて「共通の目的」が生まれる。これが本作の二者が協働できた根本的な理由だ。

相手の存在なしには目的が達成できない――この構造が、協働の起点になる。これはビジネスでも、そして現在進行中の国際情勢でも、まったく同じだ。

ビジネスに置き換えれば、これはKGI(Key Goal Indicator)の設計に相当する。文化や言語が異なるグローバルチームが機能するとき、そこには必ず「共通のゴール」が明確に定義されている。「なぜ自分たちはここにいるのか」という問いへの答えが、全員に見えていること――これが協働の第一条件だ。

では、現実の米国とイランに当てはめてみよう。

2026年4月7日、トランプはイランとの2週間停戦を発表した。米国の本質的な目的はホルムズ海峡の通航確保、イランの目的は壊滅的打撃を受けた体制を再建するための時間稼ぎだ。「本音では戦争を止めたい」と「時間を買いたい」――価値観はまったく異なるが、この一点だけで利益が交差した。しかしこれは「戦争の継続コストを下げたい」という消極的な一致に過ぎず、「共に何かを実現したい」という積極的ビジョンではない。恒久和平には、より深層の共通目的を構築できるかどうかが問われる。恒久和平の共通目的設定の具体化は両者には極めて難易度の高い作業だが、ここが最も重要だ。

この構造的問題は、ホルムズ海峡の「通航」をめぐる米イランの認識の乖離にも表れている。米国は「国際法上イランに封鎖権限はない」と主張するが、イランは沿岸国としての実力行使を継続する。共通の法的前提すら存在しない状況では、「共通目的」の合意は絵に描いた餅になる。

アメリカとイランの国旗
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心の通い合いよりも「条件の明文化」が重要

② プロトコル(Protocol)

言語が違っても、ルールや手順が共有されていれば、協働は可能になる。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』でも、両者は言語を持たない状態から出発し、試行錯誤を重ねながら少しずつ「翻訳可能な共通の手順」を構築していく。完全な理解ではなく、機能する手順の共有が優先される。

これは国際ビジネスで言えば、契約書の役割に相当する。文化が違う相手との取引で重要なのは「心の通い合い」ではなく、「条件の明文化」である。WTO(世界貿易機関)のルール、ISO規格、FATFのマネーロンダリング規制――世界規模の協働が成立しているとき、そこには必ずプロトコルがある。

では、米イラン停戦にはどんなプロトコルが設計されたか。

今回のプロトコルの核心は「米国が爆撃を止める代わりに、イランがホルムズ海峡を開ける」という行動の交換だ。仲介国パキスタンや背後で支援した中国は、双方が直接交渉できない状況でのバッファーとして機能した。イランの10項目提案に「合意履行の監視枠組みの設置」が含まれていた点は、イラン自身が感情的信頼ではなく構造的担保を求めていた証左だ。しかし停戦成立から24時間でイランは「合意違反」と猛反発した――イスラエルがレバノン攻撃を継続したためだ。

その後11、12日には仲介国パキスタンのイスラマバードで米イランの代表団が戦闘終結協議を行ったが、ホルムズ海峡の開放やウラン濃縮をめぐってお互いに譲歩できず、合意には至らなかった。トランプは米軍主導でホルムズ海峡を封鎖すると表明しており、戦闘再開の危機が高まっている。

2026年4月6日、米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領
写真=ゲッティ/共同通信社
2026年4月6日、米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領

問題の核心は三層にある。第一に三者問題――米・イラン・イスラエルが同じルールブックを共有できていない。第二に料金所問題――イランの革命防衛隊がホルムズ通航を事実上有料化し、人民元や暗号資産での支払いを求める『料金所』を設置した。これは国際法上の通航権を既成事実で書き換える制度設計だ。第三に管理権問題――イランとオマーンが海峡の『共同管理協定』を策定中であり、イランのアラグチ外相は『イランとオマーンが海峡の将来を決定する』と宣言した。トランプが設計したプロトコルは、この三層の既成事実化を想定していなかった。根本的欠陥はここにある。