ことごとく残した「非効率な手業」
こういった転売目的のファンドでは、手早く利益獲得・売上回復が求められることも多く、新しい経営者による安易な割引・必要以上のコスト削減が、逆に企業を壊すケースもある。
ましてや、当時は「利益率2%程度」と極端に稼げない体質であった「資さん」に、食材・調理方法の変更やリストラといった「劇薬」を打とうと、考えない経営者はいないだろう。
しかし、全店をまわった佐藤前社長はオペレーションの変更を行わず、ダシを店で取る・店内製麺・ぼたもち作りの職人技といった非効率な手業を、ことごとく残した。かつ、SNSで「『資さん』の伝統を守る」「味や店づくりは変えない」と頻繁に発信したうえで、創業者・大西章資さんの哲学やリーダーとしてのあり方を学ぶべく「資さん大学」を立ち上げ、教育システムとして伝統を残すという選択肢をとった。
偏見かもしれないが、こういったプロ経営者は早期に実績を残すべく、無闇にギラギラとした態度をとる方もおられる。閉塞感があった「資さん」のなかで、徹底的に伝統から学ぶ姿勢をとった佐藤前社長の経営姿勢は、ある意味珍しい。
全国進出の素地をひっそり整える
しかし同時に、佐藤前社長は、「注文タブレット導入」「マーケティングデータの取得・客層の分析」「可能な社員登用・教育強化」といった対策を次々と打っていた。伝統は変えずとも、「Excel手打ち」に依存していた社内のDX化を進め、全国進出に向けてのマニュアル統一化・マーケティングデータ取得などの下地を、ひっそりと整えていたのだ。
さらに、熱狂的な「資さん」潜在ファンがいることを早期に見抜いた上で、ファンブック発売やSNSでの交流を経て、熱量を世間に可視化させるというファンマーケティングを展開。コロナ禍という逆境を逆手に取り、「これだけ『美味しい』と思う人がいるなら、非常事態宣言が明けてすぐに食べに行きたい!」というリベンジ消費の波を引き起こし、既存店の売上をワンランク上げた。

