高い教育の質が担保された公立学校、栄養満点の学校給食
なぜ、日本は格差の固定化を防げているのでしょうか。その最大の要因は、世界に誇る「公教育の質」にあります。
OECD(経済協力開発機構)が行う国際学習到達度調査(PISA)には、「社会的レジリエンス」という指標があります。これは、「社会経済的に不利な家庭環境にありながら、成績上位に入った生徒の割合」を示すものです。
日本のこの割合は、OECD加盟国平均を大きく上回り、世界トップクラスです。アメリカでは、家庭の貧富がそのまま学力差に直結しますが、日本ではどの地域の公立学校に通っても、一定水準以上の質の高い授業が保証されています。さらに、安価で栄養バランスの取れた学校給食制度は、貧困家庭の子どもの脳の発達と健康を物理的に支える、世界でも稀なセーフティネットとして機能しています。
日本の学校システムは、家庭のACEsがもたらすダメージを、社会の力で「中和」し、逆転のチャンスを与える巨大な防波堤なのです。ただし、それが揺らいでいるのも現状です。
最強の「社会インフラ」が逆境を乗り越えさせてくれる
さらに、健康面での「逆転可能性」も見逃せません。
ACEsは体を蝕みますが、日本には国民皆保険制度があります。アメリカでは貧困層が無保険のために軽症を重症化させてしまうのに対し、日本では所得にかかわらず高度な医療にアクセス可能です。
実際、日本の健康格差は他の先進国に比べて比較的小さいことが、多くの公衆衛生研究で示されています。ACEsサバイバーであっても、適切な医療につながることで、病気の発症や重症化を食い止めることができる。
この「生存の保障」が、人生を立て直すための強固な土台となります。
もちろん、日本にも格差はあり、生きづらさは存在します。しかし、日本は生まれた環境ですべてが決まってしまう「決定論的」な社会ではまだありません。
「高い教育的流動性」「国民皆保険」「治安の良さ」。これらの社会インフラは、ACEsサバイバーが逆境を乗り越えるために先人たちが築き上げた、強力な武器です。これは私たちが戦争を経験して復活をしてきた証拠でもあります。ですから私は希望を持っているのです。
あなたが今、この本を手に取り、学んでいるという事実そのものが、日本の教育システムが機能し、あなたが逆境を跳ね返す力を発揮している何よりの証拠です(あなたが字を読める、本書を理解できるというのは教育の成果です)。


