良い条件で働けない、働き続けられない
雇用のドミノ
学歴の壁はそのまま就職の壁になりがちです。特に日本社会において顕著なのが、非正規雇用率の高さです。
日本の研究でも、小児期に逆境を経験した大人は、そうでない人に比べて、不安定な雇用形態(派遣社員、アルバイト、あるいは失業状態)に留まるリスクが有意に高いことが明らかになっています。
さらに、就職できたとしても、「働き続けること」自体に困難を抱えがちです。
ACEsの後遺症である「対人関係への過剰な警戒心」や「感情コントロールの難しさ」は、職場での人間関係トラブルを引き起こしやすくします。
上司の何気ない注意でパニックになったり、同僚の視線が怖くて出勤できなくなったりして、早期離職を繰り返してしまう。その結果、キャリアを積み上げることができず、不安定な立場から抜け出せなくなってしまうのです。
貧困家庭の子が持つ「ハンディキャップ」
所得のドミノ
低い学歴と不安定な雇用。この2つのドミノが倒れた先にあるのは、「低所得(貧困)」という現実です。特に、ACEsスコアが4点以上の人は、0点の人に比べて、生活に必要なものを購入できる収入を得られない貧困線以下の生活を送るリスクが数倍に跳ね上がります。
日本においても、ACEsサバイバーは経済的に苦しい地域に住む割合が高く、十分な収入を得られていない傾向が確認されています。
親の貧困や虐待によって子どもの成長発達が阻害され、学力をはじめとする能力や才能が伸び悩む。その結果、学歴が低いだけでなく、自分にあった適切な仕事に就けず、貧困に陥る。そして、そのストレスが自分の子どもへの不適切な関わりにつながっていく……。
これこそが、「貧困の世代間連鎖」の正体であり、その中心にはACEsというメカニズムが存在しているのです。
以上のことからわかるのは、ACEsサバイバーは、人生というマラソンにおいて、単にスタート地点が後ろだっただけではないということです。走っているコースそのものに、「集中力を削ぐ障害物」や「崩れやすい道路」などが次々と現れるような、構造的なハンディキャップを背負わされているのです。

