アプリ上での「転売ブーム」が終わっただけ
報道が相次いだ23年当時、全く「ブームの終焉」を体感できなかったので、ストリートファッションに詳しい業界の専門家に尋ねてみたことがありました。その専門家から返ってきた答えは「誰もスニーカーを履かなくなったということではなく、ナイキのレア物スニーカーの高値転売ブームが終わっただけ」ということでした。
2010年代半ばから2023年までの10年弱の期間、ナイキの限定モデル、復刻版などの「レア(希少)モデル」が何十万円という高値がつけられて、フリマアプリ等で転売されていました。これは日本だけのことではなく、全世界的に「高値転売ブーム」が起きていたのです。
その過熱っぷりは異常でした。一例を示すと、ナイキの当時のアメリカ本社副社長の息子が高値転売を繰り返し、副社長名義のビジネス用クレジットカードを使用していたことが発覚して、副社長が辞任するという事件がありました。2021年3月のことです。
この2年後に「スニーカー高額転売ブーム」もとい「ナイキレアモデルスニーカー高額転売ブーム」は終了したということになります。そして、この高額転売ブームが終了を告げたのとほぼ同時の2024年ごろからナイキの苦戦が相次いで報道されるようになります。
卸売りを削減し、直販にシフトした結果
金融市場がナイキの「1強」に疑念を突きつけたのもこの頃からでした。
24年6月に通期売上の下方修正を発表した直後、ナイキの株価は1日で約20%も暴落しました。時価総額にして約280億ドル(約4兆円超)が吹き飛ぶという、同社史上最悪の事態が起きました。
なぜこのようなことが起こったのでしょうか。
ナイキの明確なダウントレンドの要因の一つとして挙げられるのが、2020年にECを含めた直販に重点を置くために、卸売りを削減したことです。
ナイキは中間マージンを排除して利益率を高めるため、長年のパートナーだった街の靴店や量販店への卸売りを大幅にカットし、自社サイトや直営店での販売にシフトしました。この「選別」は当初、デジタル化の成功例ともてはやされました。しかし、これが致命的な「露出不足」を招きました。
ナイキのように大規模な売上高を維持するには、利益率が薄くなるというデメリットはあるものの、広い販路が確保できる卸売りは必要不可欠です。それを当時の経営陣は利益率の高さという点だけに注目をして卸売りを大幅に削減しました。
その結果、各店頭でのナイキの露出は減り、ナイキがDTC(Direct to Consumer:消費者直接販売)に固執して卸売市場を疎かにした隙に、先ほどのオンやホカといった新興勢力が棚を奪い取りました。2025年5月期決算ではナイキの売上高は対前期比で約10%近い減収となりました。
この事態を受け、ナイキはDTC路線を推し進めたCEOを事実上更迭し、OBを社長に復帰させて卸売業者との関係修復に急ぎ舵を切っています。

