人のいない世界がすぐそこに来ている
怖いのは、「破局」が静かにやってくることだ。戦争も疫病も災害もいらない。ただ今の出生率があと数十年続くだけでそれは訪れる。学校が統廃合され、地方の産婦人科が閉まり、介護の人手が足りなくなる。それぞれが「時代の変化」として処理されているうちに、次の10年が過ぎる。日本ではすでに「消滅可能性自治体」という言葉が行政文書に登場している。
現役世代の社会保険料負担はこの24年間で25万円増え、国民負担率はすでに45.8%に達している(2024年度)。すでに、年金の給付水準は少子化に連動して自動的に削られる仕組みになっている。全国の空き家はすでに900万戸、7棟に1棟が空いている(総務省、2023年)。そして全自治体の4割超、744の市区町村が「消滅可能性自治体」に分類されている(人口戦略会議、2024年)。100年後も存続できると判定された自治体は65――全体の4%に満たない。これらはすべて、今すでに起き、進行していることだ。
前出のキシュ=コズマ博士は筆者のインタビューの最後にこう言った。
「少子化の解決策はAIコンパニオン(自然言語による双方型の“会話”を通じて、日常会話の相手や子供の教育支援などを担うAIサービスやツール)などのテクノロジーではないと思います。幸せなコミュニティを若者が見つけられるよう助けることです」
この言葉が、少子化対策の文脈でこれほど根源的に聞こえたのには、理由がある。私自身、スマホ依存気味だからだ。友人や家族と同じ部屋にいながら、気づけば画面を見ている。体はそこにあるが、存在はどこか別の場所にいる。会話が進み、笑いが起きても、半分しかそこにいない。その感覚を、おそらく多くの人が知っているのではないか。
私がスマホと少子化の因果関係の仮説をイエスと見るのは、データだけからではない。自分自身の中に、その兆候を見るからだ。
問題の一端は経済や社会の制度にある。しかし私がこの取材を終えて残ったのは、もっと手前の問いだ。人が人と偶然に出会える場所が、静かに消えていないか。
やがて、産声は聞こえなくなる。その時に慌てても後の祭りである。

