TikTokが引き起こす少子化

フィンランド人口研究所のアンナ・ロートキルチ教授は2025年4月、『ベルリン・レビュー』に発表した論文「TikTokが引き起こす少子化」の中で、スマートフォンが出生率低下を加速させた経路として3つを挙げた。それは、①人生の理想像と志向の変容、②メンタルヘルスへの悪影響、そして➂性・関係形成・関係継続期間への影響である。

その証拠に、フィンランドのファミリー・バロメーター調査では、「子どもを望まない」人の割合が1990〜2000年代の4〜5%から2015年には15%へと3倍に膨れ上がったという。欲しいという気持ちが侵食される背景に、スマートフォンという新たな要因が浮かび上がっているのだ。

なぜ欲しいという気持ちが侵食される?

なぜ気持ちが薄れるのか。

マンサー・オルソン『集合行為論:公共財と集団理論』(MINERVA人文・社会科学叢書 8)
マンサー・オルソン『集合行為論:公共財と集団理論』(MINERVA人文・社会科学叢書 8)

アメリカの経済・政治学者マンサー・オルソンが1965年の著書『集合行為論』で確立した考え方で、個人が合理的に判断して行動した結果、集団全体にとって望ましくない結果が生まれる構造のことだ。少子化はまさにこれである可能性がある。ドイツ・マンハイム大学のミシェル・テルティルト教授らが『アメリカン・エコノミック・レビュー』誌に発表した論文はこう説明する。

〈親たちは子どもの教育に投資する際、絶対的な水準よりも「周囲の家庭と比べてどうか」を気にする。みんながそう考えるから、誰もが塾や習い事に費やす金額を競うように増やしていく。その結果、子育てのコストが社会全体で膨れ上がり、「もう一人産もう」という気持ちが削がれていく。一人ひとりの親は「わが子のために」合理的に行動しているのに、全員がそうすることで、誰も子どもを持ちにくい社会ができ上がってしまう〉――これが集合行為問題の罠だ。

そして、周囲に子どもを持つ人がいない環境では、自分だけが持とうとすれば旅行を断り、夜の集まりに参加できず、話題が合わなくなる。だから「今はまだいいか」と思う。全員がそう思えばロールモデルがいなくなり、子育てはますます「特殊な生き方」に見え始める。その連鎖が、次の世代の「欲しい」という気持ちをさらに遠ざける。誰も悪くない。ただ、構造がそれを選ばせる。そして選ばせ続ける。

気づけば、日本では全世帯の34.6%が一人暮らしだ(厚生労働省、2024年)。「夫婦と子」の世帯ではない。「夫婦のみ」でもない。ひとりだ。これが今、最も多い世帯の形だ。