“廃業寸前”の会社がつくったご当地アイテム

次に、3Dプリンタを核にしたビジネスモデルを構築し、地方都市から完全な“復活”を遂げた中小企業を紹介したい。

長野県伊那市にある「スワニー」の社屋。外見こそレトロな趣だが、建物の中はハイテクの機器と若い従業員たちで満ちている。

かつて日本のスイスと呼ばれた精密機械産業の集積地である長野県諏訪湖周辺。その一角で大阪万博のあった1970年から操業を続けてきた「スワニー」(同県伊那市)を訪ねた。

周囲を田畑に囲まれたのどかな風景の中に、橋爪良博社長が「ど田舎の掘っ立て小屋」と呼ぶ黒いペンキ塗りの細長い建物が存在する。

このスワニーに、東京、名古屋、大阪などから大手、中小を問わないメーカーの技術者たちが足を運び、“注文を受けてから1日で”出来上がった試作品を手にし、満足顔で会社に戻っていく。スワニーは、家電や玩具、OA・医療機器などのメーカーが、設計・試作を頼る“駆け込み寺”として存在感を高めている。

では、「掘っ立て小屋」の中はどうなっているのか。外観とは打って変わり、部屋には3Dプリンタや3Dスキャナ、切削機など最新の製品が所狭しと並んでいる。たとえ図面がない顧客のアイデアでも、スワニーの技術者たちは、3D-CADを使って図面をデータ化し、3Dプリンタで1日で試作品をつくり上げる。アイデアを即座に形にして、製品の改良や評価が、その場でできる環境を整えたところに、伊那谷ともいわれる辺鄙な場所をものともしない“復活劇”があった。

もともとスワニーは橋爪の祖父が立ち上げた会社で、モーター部品の巻き線や塗装を担う下請けとしてスタートした。最盛期には内職を含めると80人の従業員がいたが、取引先の海外移転に伴う県内産業の空洞化で、橋爪が社長を引き継いだ10年には両親と橋爪1人を残すだけで、“廃業寸前”に追い込まれていた。