出向者ならではの「取引コスト」

実際、大手生命保険会社各社(注4)が発表したニュースリリースによれば、1.5線(現場部門)や2線(コンプライアンス部門)は、出向者による不適切な情報提供リスクに対する想像力の欠如(日本生命)や、出向者の役割や保険代理店との情報授受に関するルールの明確化が不十分であり、出向者への的確な指導や明確な指示が十分に行われていなかったこと(第一生命)などが原因分析の中で述べられている。

これは、組織の設計不足に他ならない。出向者が出向先において行う業務範囲の認識や指揮命令系統が明確であったかを振り返る必要がある。

特に出向者は、自らの組織からは離れて業務を行っており、判断に迷ったときに出向先に相談すべきか、出向元の組織に相談すべきか悩ましい場合がある。出向元の組織との「情報の非対称性」が発生し、どのように実務を扱うべきか判断に迷う局面が存在する。

同時に、本人の業務上の目標達成があるなかで、出向元に報告するための心理的ハードルや物理的・時間的な距離感があるため、相談するための「取引コスト」(目に見えないコスト、心理的壁など)が発生する。そしてこの取引コストが大きくなり、本店に相談せずに「現場担当者の資料持ち出し」という判断につながった可能性がある。

注4:日本生命「当社出向者による不適切な手段での情報取得事案に係る金融庁への報告について」、第一生命HD「保険代理店への出向者からの不適切な情報取得について」、明治安田生命保険「出向者による情報持ち出しに関する調査結果について

考えるビジネスマン
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出向者による不正は「想定外ではない」

しかしこれは、組織としては従前から認識できたリスクではないだろうか?

もともと代理店営業や出向という形態は、本部との間に物理的・心理的な「距離」が生じる。その結果、誰が責任者なのかが曖昧になり、情報の非対称性や取引コストが発生しやすい土壌であることは、近年リスクやコンプライアンスを学んだ者であれば、想定できるのではないだろうか。

元来、生命保険会社は数多くの代理店を抱えてきたことから、業務特性上、担当者個人や代理店の現場裁量が多いビジネスモデルである。

であれば出向先での判断や現場裁量において、「何が適切で、これ以上は問題か」といった倫理観やリスク基準が個々の社員任せになっていなかったのか? 迷ったら本店のコンプライアンス部門に気軽に相談できなかったのか? という点が挙げられる。

加えて、判断に迷った場合に相談しやすい環境の構築や、本店部門が現場社員への積極的なコンプライアンス意識の醸成や働きかけはあったのかという点も重要だ。

つまり、想定外の事故ではなく、「出向という仕組みに内在していたリスクを把握し対策しなかった」問題ともいえるのだ。