警察庁の調査によれば、子供の連れ去り事件の8割は強引な拉致ではなく、言葉巧みにだまして連れて行くケースである。犯人にとって黄色い帽子は、最もだましやすい低学年であることを知らせる看板になってしまっている。

また、犯罪者は子供が複数でいるときよりも、一人でいるときを圧倒的に好む。この点を理解するために、アフリカのサバンナに生きる草食動物の戦略が参考になる。シマウマは群れになることで模様が重なり合い、一頭一頭の輪郭を曖昧にすることで、肉食動物にターゲットを絞らせない。子供も同様であり、一人で歩く黄色い帽子の子は、犯罪者の目に強烈な存在感として飛び込んでくるのだ。

南アフリカのリスク・マネジメント専門家クレイワーゲンは、草食動物のサバイバル術の核心は「早期警戒」にあると説いている。肉食動物をいち早く察知できれば、生存率は格段に上がる。同様に子供にも、周囲をよく見る習慣を付けさせることが重要だ。一人で歩く際も、誰かについてこられていないか、すぐそばに車が止まっていないかを意識するトレーニングが大切だ。

さらに、物理的な環境も犯罪に大きく影響する。犯罪学の「犯罪機会論」によれば、犯罪は「入りやすく見えにくい場所」で起こりやすくなる。誰でも自由に立ち入れて、周囲の視線が届かない場所を犯罪者は好む。

誘拐犯の中にも「街が密室になる状況」を狙うと語った者がいる。「密室」とは周囲から「見えにくい場所」を意味する。周囲に家のない田んぼ道や公園、高い塀に囲まれた道路などを避ける、あるいはそこを通る際には最大限の警戒を払うよう教えることが望まれる。

これらの知識を定着させるには、「地域安全マップづくり」が有効だ。子供たちが実際に街を歩き、どこが「入りやすく見えにくい場所」なのかを確認しながら、景色からリスクを判断する「景色解読力」を養う手法である。

その場所が危険か安全かを、子供自身が論理的に判断できるようになれば、大人が付き添えない時間の安全性は飛躍的に向上する。ここでは、2025年に文部科学省委託「学校安全総合支援事業」のモデル校になった長岡市立希望が丘小学校の調査をご覧いただきたい。この比較表(一部抜粋)は、地域安全マップの授業の前と後に、児童を対象に防犯知識を問うたものである。この結果を見ると、子供たちの景色解読力(危険予測能力)が大幅に上昇したことが分かる。

個人的な自衛(クライシス・マネジメント)を教えるだけで、危険な場所の見分け方(リスク・マネジメント)を教えないのは、子供に無理難題を押し付けているのと同じである。

私たちは科学的な理論に基づいた正しい防犯教育を実践しなければならない。狙われない児童とは、特別な力を持った子ではなく、一人になるリスクを理解し、危険な景色を識別でき、周囲に視線を配って隙を見せない子のことだ。これらのポイントを繰り返し伝え、間違った常識を正していくことが、最高のお守りになるだろう。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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