新入学や新学期のシーズン、親が最も心を砕くのは子供の安全である。ところが、私たちが長年信じてきた常識は、実は子供を危険にさらしている可能性がある。物理学者アインシュタインが「常識とは、18歳までに心にたまった先入観の堆積物にすぎない」と述べたように、防犯における固定観念を一度解き放ち、科学的な根拠に基づいた対策を講じることが急務だ。
現在、日本の防犯教育では、知らない人について「いか」ない、車に「の」らない、「お」おごえをだす、「す」ぐにげる、おとなの人に「し」らせる、の文字をとった標語「いかのおすし」や、防犯ブザーの携帯、そして「走って逃げる」「大声で叫ぶ」の練習が主流である。
これらはすべて犯罪が起きてしまった後の対応、すなわち「クライシス・マネジメント(事後対応)」だ。だが本来、子供を守るために最も重要なのは、事件に遭遇する前の段階で芽を摘む「リスク・マネジメント(事前回避)」ではないだろうか。危機に直面してからどう対処するかよりも、そもそも危機に陥らないためにどうするかを教えることこそ、子供の命を守る近道となる。
なぜ「クライシス・マネジメント」だけでは不十分なのだろうか。
それは、人間が恐怖を感じた際の生理的な反応を軽視しているからだ。ニューヨーク大学のルドゥー教授は、「恐怖は思考よりも早く条件反射的に起こる」と指摘している。危機的場面では、パニックに陥り、頭が真っ白になって体が硬直する反応が起こる。
実際、千葉県松戸市で下校途中の女児が刃物で襲われた事件では、逃げようとしたものの、体が固まって転倒してしまい、結果として被害に遭った。子供が危機の瞬間に冷静に行動することを期待するのは、生理学的にも非常に困難だ。
さらに、前述した「いかのおすし」という標語も、有効性には疑問が残る。多くの子供が言葉自体は知っているが、その具体的内容を即座に言える児童は稀である。この標語は犯罪学の研究から生まれたものではなく、消防庁の避難標語「おかし」を模倣して作られたもので、大人の言葉遊びに近い側面がある。
犯罪学的な裏付けがない教育は、大人の「やっている感」を満たすだけの自己満足に陥る危険があるのではないだろうか。「実践なき理論は無力であり、理論なき実践は暴力である」と言わなければならない。
犯人の心理を知り、犯罪者のターゲットリストから外れることも重要だ。
過去の事件の犯人たちの証言からは、意外な事実が浮かび上がっている。例えば、小学1年生の象徴である「黄色い帽子」は、交通安全には有効だが、防犯の観点からは犯罪誘発性を有している。犯人たちは、「黄色い帽子が目印になる」「黄色い帽子をかぶっているから目隠しには十分」と供述している。

