人間関係において、お互いの尊厳を守るにはどうすればいいか。精神科医の和田秀樹さんは「一見すると愛情や善意からの忠告にも思える言葉には、『あなたには無理だ』というメッセージが込められていることも少なくない。私たちが、自分の意思や選択を尊重されたいと思うなら、他者の選択や挑戦にも敬意を払い、尊厳を守ることが必要だ」という――。
※本稿は、和田秀樹『手放す勇気』(自由国民社)の一部を再編集したものです。
尊厳は認知症になっても消えない
手放すことは大切です。しかし、何でも手放していいわけではありません。
手放す前にやるべき大切なことがあります。
それは、「自分が絶対に手放してはいけないもの」を見極めることです。
では、私たちが絶対に手放してはいけないものとは何でしょうか。
それは、人間としての尊厳です。
高齢者医療に長年携わってきた私の経験からいえることは、認知症になっても寝たきりになっても、その人の中には「自分らしくありたい」という強い思いがあることです。
周囲が先回りして何でも決めてしまうのではなく、できるだけ「どうしたい?」と本人に聞いて、ご自身に選ばせることが大切です。それだけで人は、「自分の存在が大切にされている」と感じることができます。
ある高齢女性は、介護施設に入る際、「私はもう、だれかの世話になるしかない」と悲しそうに語っていました。
でも、職員が毎日の服を一緒に選び、「今日はこれ、似合いますね」と声をかけるうちに、次第に笑顔を取り戻していきました。
「自分の選んだことが認められる」「選んだことを尊重される」だけで、彼女の中に残っていた誇りや自尊心が、再び息を吹き返しました。
私たちは、いろいろなものを手放しながら生きていきますが、どんな状況にあっても「私は私であっていい」と思える誇りや尊厳だけは、決して手放してはいけません。

